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Highlighting JAPAN

 

 

雄大な自然を生かしたマリンスポーツでまちおこし

若者の海離れが進み、海水浴客が減った海辺の町で、かつての賑わいを取り戻すため、マリンスポーツを生かしたまちおこしが始まっている。

三重県熊野市の美しい山々に囲まれた大自然の中に広がる海水浴場、新鹿(あたしか)海水浴場は、白い砂浜と遠浅の海が特徴である。2006年には環境省より「日本の快水浴場百選」に選ばれ、毎夏多くの海水浴客でにぎわっていた。しかし、近年はレジャーの多様化に伴い、若者を中心に海離れが加速し、日本生産性本部のレジャー白書によると、国内の海水浴客数は、ピークだった1985年の約3790万人から2015年には約760万人にまで減少した。新鹿海水浴場も例外ではなく、海水浴客は年を追うごとに減っていた。

こうした状況に対応するため、2011年、熊野市市役所の職員やマリンスポーツの有識者らが集まり、新たな観光誘客を図り、熊野をマリンスポーツで賑わう町にしようと、熊野マリンスポーツ推進委員会を設立。翌2012年3月(2013年以降は10月開催)、地元の漁師や漁業関係者などの協力を得て、「熊野シーカヤックマラソン大会」を開催した。穏やかな湾内のコースを楽しむ初心者クラスから、うねりのある外海を進み新鹿の自然を満喫する上級者クラスまで、3つのクラスを設定し、初回は22名の参加者が集まった。2014年からは、シーカヤックに、初心者でもトライしやすいスタンドアップパドル(以下、SUP)を加えた2大会を開催し、以来、200名を超える参加者を集めている。※2015年からは「ビーチ・マリンスポーツフェスティバル in ATASHIKA」に名称変更

熊野マリンスポーツ推進委員会の一員であり、SUPのインストラクターとして活躍する大西咲恵さんも、以前はSUPマラソン大会に出場していた選手の一人だった。「2014年から2年連続で出場し、熊野の美しい自然に魅了されました。ちょうどその頃、熊野市が地域おこし協力隊(人口減少や高齢化等が進行する地方に地域外の人材を誘致し、「地域協力活動」への従事を通じた定住・定着を図る施策。参照)のメンバーを公募していることを知り、すぐさま応募、熊野に移住しました」と語る。地域おこし協力隊となった大西さんは、他地域の大会への出場や視察を重ねながら、選手としての目線を生かした大会内容のブラッシュアップに取り組んだ。「地元の婦人会の協力を得て、めはり寿司やさんま寿司といった郷土料理を用意し、競技を終えた選手に振る舞ったり、細かいところでは、コースの目印となる浮標を見やすいものに変えたり、もっとこうだったらいいのにと思っていたことを形にしていきました」。大会当日には、SUP体験やビーチサッカー、ビーチテニスといった選手以外の人たちも楽しめるレクリエーションで会場を盛り上げ、SUPの世界チャンピオンが海外から参加するほどの大会に成長させた。2016年には、スポーツ庁の「スポーツによる地域・経済の活性化」(参照)における成功事例にも取り上げられ、各地から視察者が訪れることも多いという。

熊野市観光スポーツ交流課・スポーツ交流係の大野幸一さんは、こうした取組の成功と今後の展望について「この大会を熊野市の秋のイベントとして定着させ、参加者を増やしていくことはもちろんですが、今後は、マリンスポーツに限らず、熊野の自然を生かしたスポーツで地域の活性化を進めていく考えです。実際、2017年には、市内に点在する岩場を利用してボルダリングの競技会が開かれ、市もサポートしています」と話す。熊野は、世界遺産に登録された熊野古道を筆頭に、鬼ヶ城や花の窟など、観光資源も豊富である。スポーツをきっかけに熊野を訪れた人たちに、そうした見どころもアピールすべく、ガイドツアーを開催するなど、さらなる取組を進めている。