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Highlighting JAPAN

 

 

人と自然が協力し、100年かけて育てた「特別な森」

多くの若者や観光客でにぎわう原宿駅のすぐ隣に広大な森が広がっている。当初は荒れ地だった場所を100年かけて独自の森にしたのは、人間の知恵と自然の力だ。1910年代に考えられた壮大な計画とその現状を明治神宮に取材した。

様々な自然現象、生物、人物などを敬う心から、それらを信仰の対象としてきた日本には多様な神々がいる。各地の神社はそうした神を祀る場であり、社殿を守るように囲む木々は「鎮守の杜」とも呼ばれる。日本では昔から森は神と深い関わりを持つと考えられていた。

原宿駅のすぐ隣に広がる約70万㎡の森は、明治神宮を包む鎮守の杜である。明治神宮は明治天皇と皇后の昭憲皇太后を祀ったもので、1920年に完成し、周囲の木々もほぼ同時期に植えられている。明治神宮総務部広報調査課課長の福徳美樹さんによれば、工事が始まる前の土地はほとんどが畑や荒れ地のような状態だったと言う。そこで植える樹木の寄付を募ったところ、日本各地や当時の日本の統治下にあった国々を始めとする近隣諸国から10万本もの献木が集まり、その工事でも延べ11万人の勤労奉仕団の協力を得た。

「明治神宮の森の特徴は、ここの土壌や気候に合う常緑照葉樹を中心にした森を目標としたこと、そしてそれを自然の働きを利用して100年以上をかけて「永遠の社」を目指したことです。当時の設計者による森の状態の予測図には、大きく育った木々を選んでまず植えたマツ類が最初は目立つものの、やがてその他の針葉樹類が育ち、さらに広葉樹類が大きくなり、やがて広葉樹が優勢の混交林になる様子が描かれています。その間、伐採や追加の植樹は行わず、土地に合わないものは自然淘汰され、土地に合った広葉樹が新たに芽吹くといった天然更新により、こうした遷移が起きると期待したようです」

明治神宮は2020年に鎮座100年を迎える。そして明治神宮の森は、現状では予測図に記された見込みよりも早く遷移しているようだと、福徳さんは語る。2013年にまとまった「鎮座百年記念第二次境内総合調査報告書」でも、現在の樹木の種類は234種と完成当初の365種から減少しており、自然淘汰が進んでいると考えられる。木々は高さ30mを超えるまでに生長するものも多く、自然性の高い森になっている。

「各地から運ばれた献木には、その土地の生物や微生物も付着していました。これも一部は淘汰されましたが、今回の調査では、本州新発見、東京新発見の昆虫類もいることが分かりました。日本新発見のヒメバチも確認されて『ジングウウスマルヒメバチ』と名付けられています。また現在、環境省のレッドリストで絶滅の恐れのある種とされる種子植物も28種類ありました」

神を守ると同時に、多様な生物も守ってきた森。近年では社殿への参拝だけでなく、森の中の小道を散策する人も増えたそうだ。ただ、「本来は鎮守の杜は神社と一体」だと福徳さんは語る。

「例えば、原宿駅から最も近く、当神宮で“正面玄関”ともいえる南口からの南参道は、一の鳥居をくぐるとなだらかな下り坂が続きます。坂の奥は両脇から森の木々が覆いかぶさるようで、その先ははっきりと見えません。坂を下りきると、左手にある御苑の池からの流れを渓谷に見立てて、そこに橋が造られており、橋を渡ることで一層神聖な場所に入るように感じられると思います」

森は、その密度を増したり、急に開けた場所に出たりと変化しながら、訪れる参拝者を社殿へと導く。全国から寄せられた木々をもとに、設計者らが「永遠に続くように」と願い、100年をかけて人と自然が協力して育てた明治神宮の森は、これからも永く続いていくことだろう。