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Highlighting JAPAN

 

 

縁側から見る日本家屋の良さ

伝統的な木造の日本家屋、そしてその構造の特徴には、日本の気候風土、暮らしや社会に適った意味がある。木材が人に与える影響、縁側の役割などを、建築家である早稲田大学創造理工学部古谷誠章教授に伺った。

「日本家屋が木造なのは、日本が森林国で、木が非常に身近なものだったからです。世界中で、民家の建築材料は日干しレンガや石、木、竹、氷など大概その地域に豊富にあって入手しやすいものでできている。すると自然に、その土地の気候風土に馴染んだ建物ができるのです」。日本芸術院賞、日本建築学会賞作品賞、吉岡賞、JIA新人賞など多数の受賞経験がある建築家、早稲田大学創造理工学部古谷誠章教授は話す。「戦災・震災などを経て、近現代の日本は木造を避けてきた歴史がありますが、特に耐火・耐震性の面で建築技術が向上し、木を見直して身近な空間に取り入れようという風潮へ復調しています」

日本の民家建築でも特徴的な、かやぶき屋根の下にせり出した木製の縁側は、廊下以上の役割を持っていたと言う。外側の板でできた雨戸と、内側の紙製の障子との間にある縁側には外部環境と内部との調節機能があり、雨戸を開ければ屋根の下に居ながらにして外の風を感じることのできるバッファーゾーンだった。「外からも見える縁側に座っていることで、正面入り口ではなく庭から顔を出して隣人が挨拶できるような、インフォーマルで気楽なコミュニケーションが可能であった。日向ぼっこや夕涼み、お茶を飲みながらのおしゃべりなどを通して、集落全体の開放的なつながりが作り上げられていったのです」

自身も縁側のある大きな木造家屋で育った古谷教授は、縁側や木製建具に幼い時代の記憶があると言う。「縁側の雑巾がけや雨戸を閉めて回るのが、幼い私の仕事でした。毎日木に触れていると、木がささくれだっているとか雨戸の滑りが悪いとか、家の健康状態が身近に感じられ、重症化する前に手当てすることができるのです」

人がふと木に手を当てて触りたくなるのは、表面熱伝達係数が低く、触れて温かく感じる特徴があるためだと言う。「まるでそれ自体が自然に呼吸しているような感覚。無機的なコンクリートや鉄、ガラスでは起こりにくい感情です」。木には調湿効果があるため、温暖で多湿な日本の気候に適しているのみならず、人がホッとする肌触りや風合い、香りを持つ。木造の学校校舎と鉄筋の校舎とではインフルエンザの罹患率にも差があるとの調査結果があり、木には人間のストレスを減ずるなど、健康上の良い効果があることが知られている。

現代日本では、木や伝統建築を見直し、例えば地方の古民家を改築してカフェや地域の交流拠点にするなどのリノベーションの動きが活発である。古谷教授自身も、高知県宿毛市の「林邸」改修・保存再生や、木をインテリアにふんだんに用いた自宅設計など、木の良さを生かす建築を手掛けてきた。奈良県の要請で杉やひのきなど優れた吉野材の活用促進を図るデザインをしたり、企業と提携し、自然に触れる機会の乏しい都心の学校の子供達に木製の家具を作ろうとする「森の家具」活動などにも携わっている。「国土の約7割が森である日本でも、都会暮らしでは森の存在を忘れてしまう。身近に木を置くことで我々を取り囲んでいる日本の森を思い出すことが大切です」。現代日本人の森の記憶を呼び覚ますことで、我々が森を大切に思う心がこれからも受け継がれていくだろう。