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Highlighting JAPAN

日本アルプスの案内人

エベレストでシェルパを務めていたネパール人のラマ・ゲルさんは、美しい山々が連なる長野県に移住し、山岳ガイドとして山の魅力を内外の人々に伝えている。

長野県に住むネパール出身のラマ・ゲルさんは、経験豊かな山岳ガイドである。ラマさんはヒマラヤ山麓のソルクンブ地方、標高約3200メートルにある村で生まれ育ち、1989年、14歳の時からキッチンスタッフとして登山隊に同行するようになった。ヒマラヤの山々で経験を積んだラマさんは、1992年には、トレッキングガイドの束ね役である「サーダー」となり、1993年からは登頂をサポートするクライミングシェルパとして、多くの登山者の8000メートル峰登頂を支えた。2000年には日本隊をエベレスト登頂成功に導いている。

来日のきっかけとなったのは、ヒマラヤに旅行で訪れていた日本人女性と結婚したことである。2004年、娘を授かったのを機に妻の実家がある神奈川県に移住、その後、ネパールの首都、カトマンズの姉妹都市である長野県松本市に家族の居を構えた。長野県には日本を代表する山脈、「日本アルプス」がある。現在は、日本アルプスの中でも、特に国内外からたくさんの登山者が訪れる「北アルプス」を主な活動の場に登山ガイドを務めるほか、松本市などから委託を受けて森林整備に従事している。また、山の恩恵に感謝することを趣旨として国民の祝日となっている8月11日の「山の日」にちなむ「山の日アンバサダー」の一人として、日本の山の魅力を伝える講演活動を行っている。

ラマさんが最もやりがいを感じているのが、子どもたちへの登山指導である。力で登るのではなく体のバランスをとる、手足を伸ばしてリラックス、などアドバイスをするラマさんが見守る中、子どもたちはテントや食料などの荷物を背負い、地図を頼りに自分たちで考えて山を登る。登山の厳しさを味わうが、頂上に着けば皆大歓声を上げる。「登山途中は、『大人になった時にきっとこの経験が生きるよ』と励まします。辛いこともあれば素晴らしい体験もある。山登りは人生に似ていますからね」とラマさんは笑顔で話す。

世界最高峰のヒマラヤの山々は、針葉樹林帯を抜ければ、その上は空の青と雪の白だけの世界である。一方、日本の山には四季があり、季節ごとに景色が変化する。ラマさんは日本で、山を覆う紅葉を初めて見て感動したと言う。「一番好きな山は、頂上に視界をさえぎるものがなく360度北アルプスの山々を見渡せる常念岳です。頂上付近で眼下に広がる安曇野市の稲田は、四季折々で全く違う色になる。何度登っても飽きない山です」とラマさんは話す。

ラマさんは、登山道の点検や遭難者が出た場合の救助など、大切な役割を担う山小屋にも魅力を感じている。「日本の山小屋は、オーナーによって個性があって楽しいですよ。すごくおいしい料理を出す所や、小屋の隣に巨大な氷の壁を作ってアイスクライミングが安全に体験できる所もある。気象予報士の免許を持ったオーナーが詳しく天気のことを教えてくれる小屋もあります」とラマさんは語る。

こうした日本の山小屋の運営や管理、トイレの処理技術などを学ぶために、ネパールからたくさんのガイドが研修に来ている。時々、彼らと一緒に山歩きをすることも、ラマさんの楽しみの一つになっていると言う。

現在ラマさんは、公益社団法人日本山岳ガイド協会が認定する、山岳ガイドの資格取得を目指している。日本の登山道は整備されていて、近年は登山人口も増えている。しかし、ラマさんによれば、日本の山は標高は高くないが、急しゅんで地形が複雑であり、天候も変わりやすく、ヒマラヤよりも危険な箇所が多いと言う。ラマさんは、日本での資格取得を達成し、今後一層、登山者の安全と山の自然を守る活動に力を注ぎたいと考えている。