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Highlighting JAPAN

環境に優しいプラスチックの普及

プラスチックによる海洋汚染が国際的な問題となる中、環境に優しいプラスチック製品を、低コストで量産化する技術が開発され、国内外から注目を集めている。

ペットボトルや食品トレーを始めとして、世界には多くの石油由来のプラスチック製品があふれている。こうしたプラスチックは、燃やせば地球温暖化につながり、海に流れ出れば微細なプラスチックごみとなり生態系に影響を及ぼすと懸念されている。2016年に世界経済フォーラムは、「世界の海を漂うプラスチックの量は、2050年までに重量換算で魚の量を上回る」という予測を発表している。

そうした中、現在の石油由来のプラスチックの代替として、「生分解性プラスチック」が注目されている。生分解性プラスチックは、自然界の微生物によって最終的に二酸化炭素と水に分解されるので、環境への負荷が少ないとされている。その一つ、ポリ乳酸はトウモロコシのでんぷんやサトウキビの糖などを原料とするもので、20年ほど前から食器やゴミ袋などの製品の原料として用いられるようになった。しかし、ポリ乳酸の加工は難しく、製品の価格も高いため、広く普及していなかった。

加工の課題を克服し、ポリ乳酸製品を従来と比べ、低コストで量産化する技術を開発したのが、福島県いわき市の小松技術士事務所所長の小松道男さんである。

ポリ乳酸の加工が難しい大きな原因は、石油由来プラスチックと比べて粘度が極めて高いということにある。一般的にプラスチックの加工には、プラスチックを加熱して溶解させた後、金型に流し込んで形を造り、冷えて固まるのを待って金型から引き剝がす「射出成形」という加工方法を用いる。しかし、粘度の高いポリ乳酸は、通常の射出成形では金型の隅々まで材料が届かず、うまく成形できない。

これを解決するために、小松さんは「超臨界」という現象に着目した。物質には、温度や圧力の条件によって、固体・液体・気体という3つの状態があるが、物質に圧力と熱を加え続けると、気体とも液体とも区別がつかない「超臨界状態」となる。

「超臨界状態の物質のことを超臨界流体といい、気体の拡散性と、液体の溶解性といった特性を併せ持つのです。溶かしたポリ乳酸に超臨界状態の二酸化炭素を混入することで、ポリ乳酸の流動性を高めることに成功したのです」と小松さんは説明する。

ポリ乳酸の成形には、もう一つ大きな課題があった。一般的なプラスチックは冷えると徐々に固まるのに対し、耐熱グレードのポリ乳酸は一定の温度になると一気に縮むため、金型に貼り付いて取れなくなってしまう。そのため、成形品を取り出すのに手間がかかり、通常のプラスチックのようなスピードで生産できない。

しかし、小松さんは、かつて大手電子部品メーカーで、金型の専門家だった経験を活かし、この課題も克服した。

「金型の中に赤外線温度センサーを入れ、ポリ乳酸の温度を1000分の1秒単位で計測しました。何度も計測を繰り返した結果、温度が110℃まで下がった瞬間に固まり始めることが分かりました。そのタイミングを見極めて金型とポリ乳酸の間に空気を注入すると、きれいに剥がれることが分かったのです」と小松さんは話す。

小松さんが開発した技術によって、愛知県を本拠とする企業が、耐熱性や強度に優れた幼児用食器の量産化に成功し、小松さんは2018年1月に、製造業における高い技術を持った個人や団体を表彰する「ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞した。開発された技術は世界で多数の特許を取得している。

2018年1月、EUは、2025年までに域内の全てのプラスチック使い捨て容器の禁止を提唱し、2030年までに域内全てのプラスチック包装をリサイクル可能にすることを目指すと宣言した。今後、このような環境規制に対応する素材として、生分解性プラスチックへの需要が高まることが予想されており、ポリ乳酸を使った幼児用食器に対しても、国内のみならずヨーロッパなど海外からも注文が寄せられているという。

「残る課題は、原材料コストが高い点です。しかし最近では、生産量や材料メーカーも増え、コストは下がってきていますので、ポリ乳酸を使った製品は、次第に普及していくと思います。私が開発した技術が、地球環境保全のための一助となれば大変うれしいです」と小松さんは話す。