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Highlighting JAPAN

フレンチ割烹

フランス出身のドミニク・コルビさんは、日本の食材や調味料を使った独自のフランス料理を、割烹スタイルの店で提供している。

東京都の新橋駅のほど近くに、フランス出身のドミニク・コルビさんの店「フレンチ割烹ドミニク・コルビ」はある。この店で出される料理はどれも華やかなフランス料理に見える。しかし、コルビさんの料理には、フランス料理の基本となる小麦粉、バター、クリームはほとんど使われていない。その代わり、出汁や味噌など、日本の伝統的な調味料が用いられている。味噌はコルビさん自らが仕込んでいる。

「お客様にはコースの最後のデザートまで美味しく味わっていただきたい。そのために、バターや小麦粉など、胃に重いものは極力使わないのです」とコルビさんは話す。「それに日本の出汁文化は本当に奥深い。良質の昆布や椎茸で引く出汁は繊細で最高の味です」

コルビさんが料理人になったのは14歳の時である。早くからフランスの料理界で認められると、パリの三ツ星レストラン「ラ・トゥール・ダルジャン」から声がかかり、28歳にしてトゥール・ダルジャンのフランス国外唯一の支店である東京支店の料理長に就任した。その後、コルビさんは大阪のホテルのレストランに移籍したが、大阪で今の店の方向性を決定づける「割烹」と出会った。割烹店は伝統的な日本料理を提供する飲食店であるが、客が調理場と対面するカウンター席に座り料理を食べるスタイルが一般的である。

「大阪で、ある割烹店のなじみになったのです。割烹店は1人でも気兼ねせずに料理が食べられるし、カウンター越しに間近に料理人と会話ができる。自分の店を出すならこのスタイルだと思いました」とコルビさんは語る。

コルビさんは2015年に独立し、東京で「フレンチ割烹ドミニク・コルビ」をオープンさせた。それ以来、何度か店の場所は移転したが、客から料理をするコルビさんの手元がよく見え、客と会話もできる割烹のスタイルは貫いている。

コルビさんの店では、1か月に2~3回メニューが変わる。その都度、コルビさんが日本各地を訪れて出会った食材を取り入れてメニューを作り上げている。「日本は気候風土に多様性があって、魚介類、肉、野菜など、その地方ごとにおいしい食材がたくさんあります」とコルビさんは言う。インタビューが行われた10月初旬には、青森の「東通牛」を前菜のサラダ、北海道のウニをロワイヤル(茶碗蒸し)、大阪のイチジクをデザートに使っていた。他にも、フランス料理では使うことのない、銀杏や赤貝など日本ならではの食材も積極的に料理に取り入れている。

1年を通して、食材探しやイベントなどの仕事で地方に行くコルビさんだが、その際に地元の日本酒の酒蔵を巡ることも楽しみの一つとなっているという。

「今はヨーロッパやアメリカでも日本酒は親しまれるようになりました。でも有名にはならない地方の小さな酒蔵にも、本当においしい日本酒がたくさんあるのです」とコルビさんは言う。

コルビさんの店には常時70銘柄ほどの日本酒が置かれている。中には夫婦2人で切り盛りしている酒蔵のものや、女性だけで酒造りをしている蔵のものもある。どれも極端に生産量が少なく滅多に市場に出回ることのない日本酒だが、コルビさんは実際に酒蔵を訪れ、味を確かめて直接生産者から仕入れる。店では、これらの日本酒とフランスのワインから、料理ごとに相性の良い酒をコルビさんが薦めてくれる。

コルビさんは、フランス料理学校「ル・コルドン・ブルー」日本校のエグゼクティブ・シェフも長年勤めていたため、たくさんの卒業生が日本各地で活躍している。コルビさんは何人かの弟子と共にフレンチ割烹の新しい店を開く夢があり、その実現を楽しみにしている。