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  • 1994年、田舎館村の初期の田んぼアート
  • 桃太郎 (2017年)
  • “ONE FOR ALL, ALL FOR ONE” (2020年)

November 2020

田んぼアート

“ONE FOR ALL, ALL FOR ONE” (2020年)

農業の盛んな青森県田舎館村(いなかだてむら)では毎年、田んぼをキャンバスに見立てて、巨大な自然のアート作品を展示するユニークなイベントを開催している。

1994年、田舎館村の初期の田んぼアート

春、水を張って鏡面のようになった田に映る空の青さ。春の田植え後、力強く育つ稲の緑がまぶしい初夏。収穫前、籾(もみ)の重みで頭が垂れた黄金色に輝く秋の稲。田は季節ごとにその表情を変え、四季の到来を伝え、人々の目を楽しませてくれる。

近年、その田んぼをキャンバスに見立てて、色の異なる稲を使って絵を描く「田んぼアート」のイベントが全国各地に広がり、観光客でにぎわっている。

田んぼアートの発祥の地は、青森県にある田舎館村である。冬にはすっぽり雪に包まれる津軽平野の中央に位置する田舎館村では、1981年に約2,100年前の稲作の跡が発見され、当時日本で最北の稲作の地として注目を浴びた。豊かな土地に恵まれ、面積当たりの米の収穫量日本一を何度となく獲得している。

こうした米作りの歴史を活かし、田舎館村では小学校の授業の一貫で、古代に栽培されていたお米を使った稲作体験が行われていた。古代米は、現在全国で作られている稲とは異なり、葉の色が紫や黄色味を帯びているものがあることから「この色の違いで、田に文字や絵が描けるのではないか」と役所が発案、1993年に初回の“展覧会”が開催された。

最初の数年は、青森県のシンボルとも称される岩木山の絵柄と文字とで構成されるシンプルなものだったが、やがて、複雑な絵柄への挑戦が始まり、11回目(2003年)には「モナリザ」を描き出した。しかし、高所から眺めると「太ったモナリザ」になってしまった。これを反省材料に、遠近法補正をした下絵を作成。さらにコンピュータを使って設計図を作成し、図面通りに田に杭(くい)を打って、決められた区画に稲を植え付ける方法を確立させた。この技術で、その後は飛躍的に緻密な絵が描けるようになり、写実的な田んぼアートが生まれることとなった。

その再現性の高さは、2015年に、ディズニーが映画の宣伝のために田んぼアートの制作を依頼したことでもわかる。その年に「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の見事な田んぼアートが作成された。これはニュースにも取り上げられ、翌年も日本の映画やテレビ番組の撮影場所となった。そして、人口8000人の村に約35万人もの見物客が訪れるようになった。

桃太郎 (2017年)

しかし、自然相手の稲作によるアートであることから、意のままにならないこともある。田舎館村企画観光課の鈴木徹主事によると「近年は、夏の気温が例年より高くなったことなどが原因で、稲の葉の色づきが変わって、文字や絵の一部が描ききれずに欠けてしまう事態が起こることがあります」というのである。

田舎館村の田んぼアートの見頃は、稲が隙間なく成長する7月中旬から8月中旬にかけてである。その後の出穂や葉色の移り変わりによって、絵の変化が見られるような仕掛けが施されている作品もある。

「米とリンゴが主な産業の小さな村が田んぼアートのお陰で、海外にも村の名前が知られるようになりました。今後は田んぼアートをきっかけにもっと村の自然やりんごやいちごといった特産物を楽しんでもらえるように工夫していきたい」と、鈴木さん。

2020年は新型コロナウイルスの影響で田植え体験ツアーから観覧まで関連イベントは中止になったが、田んぼには“ONE FOR ALL, ALL FOR ONE”というメッセージが描き出された。田舎館村の田んぼアートは、長いお米づくりの歴史と同様に、これからも長く続けられていくであろう。

季節の推移に伴う絵柄の変化