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  • 平山郁夫シルクロード美術館の展示室
  • 清春芸術村にある藤森照信氏の茶室「徹」を望む眺め
  • 山梨県立美術館に展示されている、ミレーの「種をまく人」
  • 中村キース・ヘリング美術館の展示作品

December 2020

大自然の中で芸術鑑賞

平山郁夫シルクロード美術館の展示室

山梨県には、素晴らしい山並みの景観と豊かな自然に囲まれた、著名な美術館がある。

山梨県立美術館に展示されている、ミレーの「種をまく人」

南側に世界遺産である富士山、西に南アルプス、北に八ヶ岳、東に奥秩父連峰と、周囲をぐるりと山に囲まれた県である。これらの山々を源流とする清廉な水を活用し、日本酒造りがおこなわれる他、果樹栽培が盛んである。加えて、日本のワイン生産発祥の地でもあり、約80 社のワイナリーが集積しているなど、四季を通じて大自然の中で美食を味わえる場所が多い。

そうした山梨県では、アートを楽しめる様々な施設がある。その一つが甲府市にある山梨県立美術館である。1978年に開館した同美術館は、自然豊かな山梨の土地柄にふさわしく、フランスの自然や農村風景を描いた「バルビゾン派」、その中でも特にジャン=フランソワ・ミレーのコレクションが有名である。開館準備の際、コレクションの柱にしようとバルビゾン派の作品を探していたところ、ミレーの代表作《種をまく人》を館の最初のコレクションとして購入する幸運に恵まれた。それ以降も、ミレーの風景画や肖像画などの作品収集を継続したことにより、現在では総作品数70点以上と、ミレーの作品を収蔵する美術館としては、世界でも有数の数と質を誇っている。

「ミレーは主に農民の絵を描きましたが、代表作『種をまく人』を見ても分かるように、顔の造作がはっきり描かれていません。ミレーは“誰か”ではなく“何か”を描いたのであり、大地を耕すという普遍的な行為が描かれていると言われています。それが、人々が魅了される理由なのだと思います。海を越え、時を超え、山梨という異国の地でミレーの作品を見ても違和感を抱くことはありません」と山梨県観光文化部の課長、河野公紀さんは話す。

同館では、ミレーの作品以外にも、山梨ゆかりの作家や、山梨を主題とした作品なども展示されている。例えば、自然と人とのつながりをテーマに掲げた甲府市生まれの版画家・萩原英雄(1913-2007)の「三十六富士」は葛飾北斎の「富嶽三十六景」にインスパイアされて制作した作品で、山梨の美しい自然風土を伝えている。

このほかにも、豊かな自然の中でアートを鑑賞できる3つの文化拠点が北杜(ほくと)市にある。一つは平山郁夫シルクロード美術館である。日本画家で文化勲章を受章した平山郁夫氏(1930-2009)は、日本の文化の源流を求めて、日本に仏教が伝来してきた道であるシルクロードを頻繁に訪れ、数多くの作品を描いた。同美術館には、平山氏の残したシルクロードに関わる絵画のほか、同氏が収集した美術品の数々が展示されている。約1万点に及ぶシルクロードの文物コレクションは貴重で、学術的にも高い評価を得ている。

もう一つは、1980年代アメリカのポスト・モダンアートを代表するアーティストのキース・ヘリングの作品を世界で唯一専門的に収蔵・展示する中村キース・ヘリング美術館。31歳という若さでこの世を去るまで、世界中でアートを通し、子どもへの支援やHIV・エイズ関連の運動などのプロジェクトにも力を注いだキース・ヘリングの遺志を継承し、HIV感染症に関する普及啓発、国際児童絵画コンクールの開催、様々なマイノリティーへの理解の浸透化などの数々の活動を実施している。また、国内外でのコレクション展やポップアップショップ、クラブイベントやSNSを通し海外では日本を旅行した際に行くべき美術館として選ばれ、国内の若い世代が一度は行ってみたい美術館としてもSNSで取り上げられている。

中村キース・ヘリング美術館の展示作品

そして、春には桜の花が美しく咲き誇る約1万8,000平方メートルの敷地に美術館、図書館、陶芸工房、茶室などの施設が集まっているのが清春(きよはる)芸術村である。ここでは、ニューヨーク近代美術館増築を担当した谷口吉生氏の設計で、宗教画で有名なフランスの画家、ジョルジュ・ルオーを記念して建てられた「ルオー礼拝堂」、米国テキサス州のフォートワース現代美術館など国内外で多くの美術館を手掛けている安藤忠雄氏が設計した「光の美術館」、建築史家で建築家の藤森照信氏が設計した、高さ4メートルの木の幹の上に建つ茶室、1989年にエッフェル塔が完成して100年を迎えた際にフランスから移設されたエッフェル塔の階段の一部など印象的な建造物の数々を見ることができる。

清春芸術村にある藤森照信氏の茶室「徹」を望む眺め

こうした芸術鑑賞の合間に、かぼちゃやにんじんなどの野菜を煮込んだ汁に幅広の麺が入ったほうとうやアワビの煮貝などの郷土料理を食べたり、県内に点在するワイナリーで、山梨県の固有品種である甲州を使ったワインを飲み比べできるのも、山梨ならではの旅の魅力である。

「山梨では、美術館のみならず、郷土料理、果樹園、ワイナリー、山からの美味しい湧き水、その水で醸した日本酒の酒蔵を巡る旅など、色々な目的で周遊できると思います。アート体験と山梨ならではのいろいろな体験を組み合わせせれば、より山梨の魅力を堪能できると思います」

と河野さんは話す。