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  • 吉田家住宅の坪庭(中庭)
  • 京都生活工藝館無名舎(吉田家住宅)の坪庭(中庭)

May 2021

京町家の坪庭

京都生活工藝館無名舎(吉田家住宅)の坪庭(中庭)

京都の一角に残る伝統的な木造家屋「京町家」。その京町家には、小さいながらも、住人の日々の生活に潤いを与える「坪庭」が、必ずといってよいほど備わっている。

吉田家住宅の坪庭(中庭)

京都市内には、「京町家*」と言われる古い商家などの伝統的な木造家屋が数多く残っている。京町家の顕著な特徴は、表通りに面した間口が狭く建物が奥に向かって延びている、「ウナギの寝床」とも言われる造りにある。また、一軒ごとに、間取りは異なるが、建物の内部に、「坪庭」と呼ばれる、とても小さな庭が作られている。

例えば、1909年に建てられ、国の登録有形文化財に指定された京都生活工藝館無名舎(吉田家住宅)。もともと、白生地問屋と言って、着物を染める前の素材を扱う商家だった。間口約10メートル、奥行き約40メートルの敷地に建つ二階建ての典型的な京町家の造りであり、大小の坪庭が二つ設けてある。

京町家の再生などの活動を展開する吉田孝次郎さんは「京町家の庭は眺めるためだけに作られたわけではありません。坪庭があることで快適な生活が送れ、京都人の世界観も見えるのです」と言う。

細長い敷地に建ち並ぶ京町家は、隣家との間がわずかしかない。このような密集した建物で、風の通り道を設け、採光や通気を確保することが坪庭の役割の一つという。

吉田家住宅の坪庭の一つは店舗のすぐ後ろにある4.6メートル×3.3メートルの小さな「中庭」であり、さらに座敷を挟んだ奥に、その倍の「奥の庭」がある。坪庭には、様々な石や灯籠のほか、棕櫚竹、紅葉、侘助(椿の一種)などの植栽が巧みに配置され、住人や来館者は四季それぞれの風情を楽しめる。都市の中にありながら、常に自然とともにある暮らしを求めた京都の人々の昔ながらの趣向を表現している。「市中の山居」と言い、市中にありながら山里の草庵を思わせる風情をも表現している。

坪庭があることで、住人や訪問客は植栽の緑の変化、風の微妙な動きに季節感を感じ、更に山里の簡素な風情までにも思いをよせる。そこには、自然とともに暮らす日本伝統の世界観と京都の暮らしの美学が見てとれる。

* 1950年以前の木造3階建て以下の伝統的手法による建物