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  • 稲穂を日光で干す伝統的な技術の「はざ干し」
  • 白米千枚田
  • 貝を獲る海女
  • 田の神様をおもてなしする「あえのこと」を行う農家

October 2021

能登の里山里海

稲穂を日光で干す伝統的な技術の「はざ干し」

石川県能登地域の伝統的で特色ある農村文化と持続的な農林水産業は、2011年6月、「能登の里山里海」と総称され、国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定された。

白米千枚田

日本海に突き出た石川県の能登半島は三方を海に囲まれ、標高200〜500メートルの丘陵地帯がその大部分を占める。4市5町*が集まるこの一帯は能登地域と呼ばれ、白米千枚田(しろよねせんまいだ)に代表される斜面を切り開いた棚田や、谷間を利用した水田、農業用水用の1800を超えるため池など、地勢を活かした土地利用や技術が今に受け継がれている。この地域に受け継がれる農林水産業とその伝統技術や祭礼などの農村文化、そして美しい景観が評価され、2011年6月、国連食糧農業機関(FAO)により、日本で初めて世界農業遺産に認定された。

輪島市の白米千枚田は能登地域を代表する光景だ。一枚あたりの平均面積が約18平方メートルで、約4ヘクタールの土地に千枚を超える田が、あたかも波のように折り重なり海岸まで続く。秋には、木と竹を組んだ棚に刈り取った稲束を掛けて天日で乾燥させる「はざ干し」も能登を代表する光景だ。米の旨味をじっくり引き出す伝統的な乾燥技術だ。こうした天日による米の乾燥は、手間暇がかかる上に農家の高齢化のため、今では機械乾燥が主となり、全国的にも減少傾向にある。

貝を獲る海女

こうした昔ながらの光景が残るのは、能登の里山**だけではない。実は、能登の海もまた同様である。「里海」***と呼ばれる沿岸域で、人びとは豊かな海の恵みを利用し、生活を行ってきた。例えば、日本では珠洲市(すずし)のみに継承されている「揚げ浜式」と呼ばれる製塩法がある。手作業で海水を汲み揚げて砂の上に繰り返し撒き、その砂を集めて海水を混ぜ、塩分濃度の高い水を作る。その水を釜で焚き、濾過をして、塩を作る。また、400年以上の歴史を有する輪島の海女漁は、素潜りにより、アワビやサザエ、海藻の採取が行われている。海女になれるのは、その土地に生まれた女性或いは嫁いできた女性だけというのも昔のままだ。自治組織として漁獲を制限するための厳しいルールを設けることで、海の生態系を壊すことなく資源を管理するなど、持続的に水産資源を利用するための伝統を守り続けている。

里山と里海で生活を営んできた人々は、その恵みに感謝する祭礼も大切にしている。高さ十数メートルの御神灯が集落を練り歩き豊漁や豊作を祈願する「キリコ祭り」や、田の神様をおもてなしする「あえのこと」(HIGHLIGHTING Japan 2020年11月号参照)、木材や薪の収穫と作業の無事を山に感謝する「山祭り」の行事などがそれだ。豊かな恵みに感謝し、仕事上の安全や豊かな恵みを祈る。時代を経て、そうした行事、あるいはしきたりが簡素化されたり、行事自体が行われなくなってしまう例もあるが、石川県ではそういった伝統文化はもとより、伝統的な技術の継承に向けた取組を進めている。

田の神様をおもてなしする「あえのこと」を行う農家

石川県里山振興室の多田武俊さんは「能登の豊かな里山里海を未来に引き継ぐため、様々な取組を行っています。例えば白米千枚田は所有者の高齢化が進んで耕作放棄地が増えていました。そこで田を1枚から借りられるオーナー制度を実施しています。他にも行政と大学が連携した、自然資源を活かし地域の課題解決に取組む人材や持続可能な地域社会モデルを発信するような地域のリーダーの育成なども進めているところです」と話す。

能登半島の豊かな自然、それを生かしてきた人々の営みが、里山と里海を守り引き継いできた。そしてまた、新たな取組が次の世代へ能登らしさをつないでいく。

* 七尾市、輪島市、珠洲(すず)市、羽咋(はくい)市、志賀町、中能登町、穴水町、能登町、宝達志水町
** 里山は集落を取り巻く農地、ため池、二次林、人工林、草原などで構成される地域(環境省)
*** 里海は人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域 (環境省)。