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September 2022

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観月の夕べ

  • 大覚寺・大沢池に舟を浮かべて、月を楽しむ「観月の夕べ」
  • 五穀豊穣を祈る満月法会の様子
  • 二艘ある「龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)舟」のうちの、一艘の先頭(龍頭)
大覚寺・大沢池に舟を浮かべて、月を楽しむ「観月の夕べ」

毎年秋になると、京都市嵯峨野*の大覚寺(だいかくじ)境内の大沢池(おおさわのいけ)では、舟を浮かべ美しい月を楽しむ「観月の夕べ」が催される。

二艘ある「龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)舟」のうちの、一艘の先頭(龍頭)

暑い夏が過ぎ、空気が澄む秋の夜に満月を見て楽しむ、そんな「月見」の風習は平安時代(794〜12世紀末)初期に宮廷貴族の間で始まった。貴族は月を見ながら酒を酌(く)み交わしたり、池に舟を浮かべて詩歌を詠んだり楽器を演奏して楽しんだ。この伝統を受け継ぐ「観月の夕べ」が、京都の西北、嵯峨野の中心に位置する大覚寺で、毎年、秋に催される。

大覚寺は、876年に創建された天皇家ゆかりの寺院**で、境内には、現存する日本最古の人工の林泉(林や泉水などのある庭園)の地として知られる大沢池がある。国の名勝地にも指定されている大沢池は、周囲約1キロメートル、約6万4000平方メートルの広さで、秋の夜、水面に映る月もまた美しい。

「天皇や高位の貴族たちにとっては、月は見上げるものではなく、視線を落として水面に映る月を愛でたり、盃の中のお酒に月を映して楽しみました」と、大覚寺総務担当執行(そうむたんとうしぎょう)の岡村光真(おかむら こうしん)さんは語る。天皇や貴族ならではの月見の作法である。

「観月の夕べ」では、そうした故事に倣(なら)って、今でも、架空の動物である、龍の頭、あるいは鷁(げき)***の首を舟の先頭に付け、水上の世界を楽しむ「龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)舟」二艘(そう)を浮かべ、大沢池をゆっくりと回りながら、王朝時代さながらに月見を楽しむ。

「空には煌々(こうこう)とした月が輝き、目を落とせば、同じ月が静かな水面に映る。大沢池に映る月を見る時、人工物は視界に入りません。この二つの月見は、何もかも忘れて自然の中に入り込むことができるような気がします」と、岡村さんは言う。

この「観月の夕べ」は、9月から10月にかけて中秋の日を含む3日間の夜開催されている。この間、池に張り出した特別舞台では五穀豊穣を大覚寺の僧侶が祈る儀式「満月法会(まんげつほうえ)が行われ、多くの人々が大沢池の満月を堪能する。

五穀豊穣を祈る満月法会の様子

さらに、大沢池は、紅葉の名所としても知られている。「観月の夕べ」が終わり、秋も深まる11月中旬から12月上旬には、真っ赤に色づいた紅葉が水面に映る。夜間にはライトアップも行われ、幻想的な風景が出現する。

大覚寺の大沢池は、かつて王朝貴族が楽しんだ「秋」に今でも出会える場所と言えよう。

* Highlighting Japan 2022年8月号「京都嵯峨野の竹林を通る二つの道」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202208/202208_02_jp.html
** 平安初期、嵯峨天皇が離宮を建立されたが(離宮嵯峨院)、これが大覚寺の前身。 嵯峨院が大覚寺となったのは、皇孫である恒寂入道親王(ごうじゃく にゅうどうしんのう)が開創した876年。
*** 想像上の水鳥。白い大型の鳥で、空を飛び回り、また、巧みに水にもぐるとされる。