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September 2022

京都の秋に気品を添える着物

  • 秋のモチーフであるカキやキクの京友禅
  • キクを手描きしている京友禅の制作の様子
  • 藤井友子さんが着用する着物には、竜田川のモチーフが描かれている。中央に飾られている訪問着には大覚寺の「嵯峨菊」が描かれている。
  • 秋の着物の色に合わせた、黄緑の帯締めと帯上部の水色の帯揚げ
秋のモチーフであるカキやキクの京友禅

京都で生まれた着物の染色技法「京友禅(きょうゆうぜん)」は、伝統的に季節感を大切にし、季節ごとの風物を映し描く。秋にはモミジ、キクやハギなどをモチーフに秋特有の情緒を描き出す。

藤井友子さんが着用する着物には、竜田川のモチーフが描かれている。中央に飾られている訪問着には大覚寺の「嵯峨菊」が描かれている。

日本の古典に歌われたモミジの紅葉や古刹(こさつ)のキクなど、秋のモチーフを染め上げた着物は、あたかも一幅の絵画のようである。絹を、鳥、花、風景などで色鮮やかに染め上げる「友禅染(ゆうぜんぞめ)」の技法は、17世紀後半に京都で発祥し全国に広がった。京都の友禅染の技法を特に「京友禅」*と呼ぶ。

「京都の人は、京都のことばで言う『はんなり』と言う“はなやかだけれどやわらかい”色味で四季を表現する京友禅を好むように思います。絵柄も、平安時代から続く日本独特の美意識を表現する古典柄という、京都らしいものが多くなります」と語るのは、老舗京友禅染匠、彩琳(さいりん)株式会社の社長を務める藤井友子(ふじい ともこ)さんである。

藤井さんが母から受け継いだ着物(写真)も、京都に隣接する奈良県を流れる竜田川(たつたがわ)をモチーフにしたもの。竜田川は秋の着物の柄として定番である。竜田川は「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは(古今和歌集905年編纂 在原業平(ありわらのなりひら)**」を筆頭に、古来、数々の和歌の名歌が詠まれてきた紅葉の名勝だ。

もう一つ、京都の名刹・大覚寺(だいかくじ)(「観月の夕べ」参照)境内にかつて自生していた菊を代々品種改良した「嵯峨菊(サガギク)」を描いた秋の京友禅は格調高い意匠だ。そのほか、イチョウなどの枯れ葉が吹き寄せる様やカキの実、ハギなど愛らしい秋の草花を盛った花かごなども、秋のモチーフとして今でも人気がある。

通常、手描き友禅は筆を用いるが、彩琳では、筆よりも幅の広い刷毛(はけ)を用いる。より高度な技術が求められるが、刷毛を用いることで、目の詰まった絹地でも糸の芯まで染め付けることができる。また、地色を全体に引かず、刷毛で少しずつ模様を表現し染め上げる。

こうした技法は、先代の「染匠」(せんしょう)で藤井さんの父であるの寛さんが腐心して生み出したものである。染匠は手描き友禅が京都に生まれるのと同時期にできた京友禅独特の職業である。染匠は意図する意匠や色、技術を、およそ15工程ある職人のそれぞれの職人に指示しする。その指示のもと、職人はそれぞれの技術を1枚の着物に施していく。そのうち、彩色は1人が担当し、かかる日数は20日間ほど。20~30色の染料を混ぜ合わせ無限の色数を作る。

キクを手描きしている京友禅の制作の様子

彩琳の中心的ブランド「藤井寛のきもの」は、繊細かつ気品あるグラデーションに定評があり、日本の皇室の主だった方々からも御注文を賜り、公的な行事などでお召しになられていらっしゃったことから、「ロイヤルカラー」と言われる。彩琳の工房を任される友禅職人は「同じ赤でも、春なら彩度を明るく、秋なら暗めにします。よく、京都御所付近などを散策して木々の色の陰影を観察して参考にしたりします」と話す。

丹精込めて染め上げられた一点物の京友禅の着物に、さらに帯揚げ(帯上部を飾る布)や帯締め(帯の中央に巻かれ紐)などの小物の色を使い分ける。秋の始めには爽やかな色、秋が深まれば濃い色を用いる。そうしてコーディネートして着こなした秋の意匠の京友禅の着物は、古都・京都の落ち着いた秋の景色になじみ、はなやかさと気品を添えると言えよう。

秋の着物の色に合わせた、黄緑の帯締めと帯上部の水色の帯揚げ

* 京都の伝統的な着物を制作する技術である「京友禅」は、防染に糸目と呼ばれる糊置きをすることが特徴で、絹の生地に筆で直接染める技法だ。17世紀後半、扇絵師として京都で活躍していた宮崎友禅斎が、自身で描いた絵柄を着物に染めたことに始まると言われている。多くの色を用い、花鳥風月が雅やかにデザインされ、華やかさが印象的だ。
** Highlighting Japan 2020年10月号「和歌に詠まれた秋の色」脚注参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202010/202010_02_jp.html