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December 2022

先祖代々受け継がれてきたアイヌの文様

  • アイヌの文様が施された衣服と鉢巻を身に付けたウポポイの踊り手
  • 国立アイヌ民族博物館で展示されている伝統的なアイヌの衣服
  • 国立民族共生公園の「イカㇻ ウシ(工房)」で、来館者はアイヌの刺繍作りを学べる。
アイヌの文様が施された衣服と鉢巻を身に付けたウポポイの踊り手

主に北海道の先住民族であるアイヌは先祖代々、多様な文様を衣服や道具などに施している。

国立アイヌ民族博物館で展示されている伝統的なアイヌの衣服

北海道白老町(しらおいちょう)の「民族共生象徴空間」(愛称:ウポポイ) は、日本列島北部周辺、主に北海道の先住民族であるアイヌの歴史や文化に関する展示、調査研究、情報発信などの取組を行っている。その主要施設の一つ、「国立アイヌ民族博物館」の展示室では、アイヌの人々が儀式や狩猟に使う道具など、貴重な品々が展示されている。

特に来館者の目を引く展示品の一つが、木綿の衣服である。アイヌの伝統的な衣服は着物に似ているが、単衣(裏地のない着物)で、袖口が狭く台形のような形状の「モジリ袖」であるのが一般的だ。

衣服の背中や裾(すそ)などには、布や刺繍などでアイヌ文様が施されている。トゲの形をした文様の刺繍があり、それを「キラウ」(アイヌ語で「角(つの)」)と呼ぶ作り手もいるが、「とげ」を表す「アイウシ」と呼ぶ説もある。また、「モレウ」と呼ばれる渦巻き文様があり、萱野茂(かやの しげる) のアイヌ語辞典によると「彫刻物の模様」と書かれている。しかし、着物に施す渦巻き文様を「モレウ」と呼ぶ作り手もいる。このように、文様の形状を表すアイヌ語は、地域や個人により異なったり、名称自体が伝承されていない場合がある。

国立アイヌ民族博物館で学芸員を務める北嶋イサイカさんは、「アイヌの衣服は、昔から着る人のために文様をデザインして作るため、デザインの種類はたくさんあります。しかし、アイヌ文様の意味や由来を知る手がかりは少なく、分からないことが多いのが現状です」と話す。

北嶋さんによれば、仕立てた衣服に文様を作る技法は大きく分けると3種類あると言う。①刺繍で文様を作る技法、②細く切った複数の布を文様の形となるよう衣服に縫い付け、更にその上に刺繍を施す技法。③幅広の布を文様の形どおりに切りぬき、衣服に縫い付けて、更に刺繍を施す技法である。これらの技法を単独、あるいは複数組み合わせて文様を作り出していく。

文様は、衣服以外にも、頭に巻く鉢巻や前掛け、儀式や狩猟で用いる道具など、布や木などを素材とする様々なものに描かれている。例えば、木彫、狩猟、料理など様々な用途で使われる小刀の木製の鞘(さや)や柄(え)に文様が施されたものもある。

アイヌの文様には魔除けの意味があるという説があるが、北嶋さんによれば、アイヌの文様に関して文字で書き残された記録は少ないため、魔よけだと言い切ることはできないという。「ただ、作り手が魔よけの意味を込めてアイヌ文様を施したと言うのであれば、それには魔よけの意味があるのでしょう」と北嶋さんは話す。

国立民族共生公園の「イカㇻ ウシ(工房)」で、来館者はアイヌの刺繍作りを学べる。

アイヌの文様は親から子へと受け継がれてきた。近年は、親から子へと伝えていくだけではなく、文様の刺繍を教える講習会も開催され、一般の人も学べるようになっている。アイヌである北嶋さんは30代半ばころ講習会に通い始めて以来、約15年間、刺繍に取り組んでいる。

アイヌの文様は本当に美しいし、迫力があり、見ているとエネルギーがわきます」と北嶋さんは話す。「それに、文様を縫っていくことは楽しいです。完成した作品を先生や親しい人に見せると、とても喜んでくれます。文様を作ることで、様々な人とのつながりを実感できます」

北嶋さんが所属する博物館 が立地するウポポイには、体験型フィールドミュージアム「国立民族共生公園」がある。そこでは、伝統芸能の上演や料理の調理などの様々なプログラムが実施されている。公園内の「イカㇻ ウシ(工房)」では、来場者は木彫や刺繍の製作を見ることができる他、コースターやマスクなどにアイヌ文様を刺繍する体験もできる。

ウポポイでアイヌの文様の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

  • * Highlighting Japan 2020年12月号「民族共生の地」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202012/202012_02_jp.html
  • ** 萱野茂(1926-2006)はアイヌ語や民話の記録、民具の収集などアイヌ文化を守ることに尽力した人物
  • *** 国立アイヌ民族博物館では、「ウアイヌコㇿ コタン アカㇻ -民族共生象徴空間(ウポポイ)のことばと歴史」が2022年12月13日から2023年2月12日まで開催されている。