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January 2023

自転車で地域のより良い未来づくりを進める

  • 国際交流員の役割の一環として山中湖村の小学校で講演するトムさん
  • アルプス付近で自転車競技の練習をする当時20歳のトムさん(前列左側)
  • 山中湖と富士山を背に自転車に乗るボシス・トムさん
  • ボシス・トムさん
山中湖と富士山を背に自転車に乗るボシス・トムさん

フランス出身のボシス・トムさんは、自転車競技やサイクリングツーリズムなど、自転車を中心に据えた日本の地域活性化に取り組んでいる。

ボシス・トムさん

2020東京オリンピックの自転車ロードレースのコースは、東京都府中市、調布市、三鷹市にまたがる「武蔵野の森公園」をスタートし、静岡県小山町(おやまちょう)の「富士スピードウェイ」でゴールするというものだった。コースの途中には、雄大な富士山の裾野に広がる富士五湖の一つ、山中湖の湖畔のルートがあてられた。

現在、このオリンピック・レガシーを持つ山梨県山中湖村で、国際交流員を務めているフランス出身のボシス・トムさんは、自転車を中心に据えた地域活性化に取り組んでいる。「自転車には、自分の力だけで移動ができること、自然を楽しめることなど、自転車競技だけではない、もっと広い魅力があると思っています。こうした価値観は、これからの社会にきっとマッチするはずです」とトムさんは語る。

トムさんは、およそ120年の歴史を誇るツール・ド・フランスの開催国であるフランスで、2006年から自転車競技を始め、大学時代には国内の選手権で9位に入って自国の代表候補になるなど、将来を嘱望された選手の一人だった。しかし、学業との両立を図ろうとしたトムさんは、自転車競技に生活を捧げることに疑問を抱き、最終的に競技から引退した。2015年、見聞を広めるため、まったく異なる文化圏である日本への留学を決めた。「来日前は他の国々にも行ってみるつもりだったのが、すっかり日本という国を好きになって、帰りたくなくなってしまった」と言うトムさんは、その後、日本のプロの自転車競技チームに、選手兼コーチとして所属することとなった。

アルプス付近で自転車競技の練習をする当時20歳のトムさん(前列左側)

自転車による地域活性化に取り組む契機となったのは、東京オリンピック開催前に、フランスの自転車チームから、日本での事前合宿の候補地について相談を持ち掛けられたことだった。トムさんは、自身の練習コースとしてよく知っていた山中湖畔が、日本の蒸し暑い夏でも涼しく過ごしやすいこと、東京からもかなり近いことから最適だと推薦したところ、合宿地に決定した。このことが縁となって、トムさんは2018年に山中湖村の国際交流員に就任。村に自転車文化を根付かせるために「山中湖村を自転車の聖地へ」とする企画書を村長に提出し、今は子供や一般サイクリスト向けの自転車教室の開催を含めた、自転車普及活動に取り組んでいる。また、世界レベルの選手の育成と自転車競技の普及を目的としたロードレースチーム「アヴニール*・ヤマナシ・ヤマナカコ」の2021年の立ち上げに参加し、その年の監督を務めた。また、この年、山梨県で開催された「アヴニールカップ」と呼ばれる自転車レースの運営に携わった。

「山中湖村は自然が美しい村ですが、本当に美しいのは早朝だということはあまり知られていません。自転車で富士山の側を走っている時にダイヤモンド富士**や、紅富士***を見かけると、まるで芸術作品の中にいるように思えてきます」と、トムさんはサイクリングコースとしての村の魅力を語る。

国際交流員の役割の一環として山中湖村の小学校で講演するトムさん

トムさんは、今、自転車と日本の地方の魅力の2つを結び付けた、サイクルツーリズムのスタートアップを、まずは山中湖村を含めた富士山地域で立ち上げることを計画している。富士山がまたがる静岡県、山梨県を中心としたこの地域は、海があり山があり、お茶やフルーツなどの農産物、富士山信仰の文化などなど、日本の魅力を凝縮したような地域だと言う。富士山の裾野を広い範囲で走る自転車コースの人気が高まれば、コース周辺で国内外の観光客増加も期待できるとトムさんは考えている。

「その土地の人々と出会いながら、豊かな自然を共有できるような、より良い未来のために、自転車が寄与できることを考えていきたいです」とトムさんは今後の目標を語った。

  • * アヴニールはフランス語で「未来」を意味する
  • ** 富士山の山頂に太陽が重なることで輝きが生じる光の現象
  • *** 冬、雪が積もった山頂が朝夕、太陽に照らされて淡い紅色に染まった状態