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March 2023

現代の日本にある世界有数の金山

  • 金産出量日本一を記念した鉱石(1997年)
  • 愛媛県の東予工場で製錬された、純度99.99パーセントの純金
  • 鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山
  • 全長100メートルを越える坑道
金産出量日本一を記念した鉱石(1997年)

鹿児島県伊佐(いさ)市の菱刈(ひしかり)鉱山は、鉱石に含まれる金の含有量とコストパフォーマンスで、現在、世界有数の金山の一つである。

愛媛県の東予工場で製錬された、純度99.99パーセントの純金

金や銀、銅や鉄など、日本には多数の鉱山があったが、現在、唯一、商業規模で操業している金鉱山が鹿児島県伊佐市にある住友金属鉱山株式会社の菱刈(ひしかり)鉱山だ。

「火山活動の活発な地域では、マグマに熱せられた地下水に様々な物質が溶け出しています。それが冷え固まったものが鉱床(こうしょう)です。鹿児島県は昔から地下資源の豊かな土地ですが、菱刈の金鉱床は実は温泉と同じ火山の恵みなのです」と住友金属鉱山株式会社の広報担当課長・白川博一(しらかわ ひろかず)さんは話す。

1981年、菱刈鉱山で有望な金鉱床が見つかり、1985年から出鉱が始まった。産出された金鉱石は愛媛県にある同社の東予(とうよ)工場で製錬され、純度99.99パーセントの純金となる。年平均6トン前後の金の産出量は、過去の日本の金鉱山に比べても圧倒的な量だ。例えば、時代の違いがあり簡単に比較はできないが、佐渡金山*は20世紀後半までの約400年で83トンあまりの金を産出したのに対し、菱刈は40年で累計約260トンだ。

鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山

何より菱刈の特徴は含有量とコストにある。

「菱刈鉱山の特長は高品位な鉱石にあります。海外では鉱石1トンに含まれる金が3グラムもあれば十分に採算が取れると言いますが、菱刈鉱山の金含有量は20グラム程度、世界でもトップクラス」で、しかも「金を生産する費用は鉱石の量にほぼ比例するので、当社では低コストで、効率良く純金を作り出すことができるのです」と白川さんは言う。

菱刈鉱山の最新の確認埋蔵量は約157トン(2021年12月末現在)で、単純計算するとあと25年ほど採掘を続けることができる。

全長100メートルを越える坑道

しかし、白川さんは「当社では2023年から金産出量を年間6トンから4.4トンへと引き下げました。金含有量の比較的低い周辺の鉱石も一緒に採掘して、貴重な地下資源を余すことなく利用することが使命だと考えているからです」と言う。

菱刈鉱山は、地域の環境に配慮した操業はもちろんのこと、採掘時に湧き出る高温の地下水を地元の温泉地に無償提供し、さらには国内唯一の金属鉱山として日本の次代を担う若者たちに実践的な鉱山技術を学ぶ場を提供するなど、様々な貢献を行っている。

さらには時代を意識した取組が、DX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。鉱山の坑道内にWi-Fiの敷設し、鉱石の積み下ろしや運搬を行う重機の自動運転化を進めている。DXは安全性向上やコスト追求に資するものであり、長期間にわたり安定して金を採掘し続ける、将来を見据えた取組にもつながるだろう。

* Highlighting Japan 2022年10月号「徳川幕府の金山」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202210/202210_05_jp.html