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March 2023

金箔の用途を大きく広げる

  • 壁面や引き戸に金箔を装飾した九州新幹線の車両
  • 「リーデル」とコラボレーションにより制作された、金箔の台座があるワイングラス
  • 外壁に金箔模様が装飾された東京銀座のビル
  • JR大阪駅「時空の広場」の金箔で覆われた時計
  • 2019年の「ゲラン」の「ミツコ」フレグランスの100周年を記念した、金箔で覆われた香水ボトル
壁面や引き戸に金箔を装飾した九州新幹線の車両

金箔の一大産地・石川県金沢の企業が、金箔の用途を大きく広げ、世界中の人々を魅了している。

「リーデル」とコラボレーションにより制作された、金箔の台座があるワイングラス

金箔は、日本では歴史的に、主に美術工芸品に使われてきた。特に、石川県金沢市は、450年以上にわたり金箔づくり*が続けられてきた土地柄で、現在、日本の金箔全生産量の98パーセント以上を占めている。その金沢では新しい企業だが、1975年創業の「箔一(はくいち)」は金箔の用途を大きく広げ、チャレンジ精神をもってその理想を追求している。同社の金箔は、化粧品や食用、さらには建築や天文技術など、幅広い分野で活用されている。

「創業者のチャレンジ精神は箔一の社風となっています。1987年に型を抜いた食用金箔を開発、1997年には建築事業や産業観光をスタートさせるなどいずれも業界内で先進的に取り組んできました」と、同社の広報担当は話す。

外壁に金箔模様が装飾された東京銀座のビル

箔一の創業者である故浅野邦子(あさの くにこ)さんは、金沢で工芸や仏壇用の金箔製造を営む男性と結婚したが、1973年のオイルショックで家業が苦難に陥ると、家業を助けようと金箔を使った工芸品を創作し、箔一を立ち上げたのだった。これが、「金沢箔工芸品」という新しい工芸ジャンルを確立するまでに至る始まりである。

次いで、同社は接着やコーティング技術を進化させ、金箔の弱点だった剥がれやすさを克服し、現代建築にも用途を広げてきた。例えば、成田空港の壁面装飾、東京スカイツリー、JR大阪駅「時空の広場」、大阪国際空港など、日本で知名度の高い場所で、金箔を用いた室内装飾を手掛けている。そのほか、交通機関に求められる厳しい耐火性能、耐久性能の基準を満たした上で、JR九州新幹線の車両壁面や扉に金箔装飾を施す仕事も請け負った。

JR大阪駅「時空の広場」の金箔で覆われた時計

金箔の新しい可能性を感じさせるのが、2014年に日本の天文観測をリードしてきた長野県の野辺山宇宙電波観測所の電波望遠鏡に同社の金箔が採用されたことだ。宇宙の微弱な電波をキャッチする電波望遠鏡の一部である反射鏡(2.5×3.5メートル)に、箔一の熟練の職人3人が10日ほどかけて、通常より厚みのある金箔(100分の3ミリ)を貼った。これによって観測効率は15パーセントもアップしたという。

その後、2016年にはオーストリアの有名なグラスメーカー「リーデル」とコラボレーションした金の台座を持つ金箔のワイングラスのデザインや、フレグランスメゾン「ゲラン」の代表作「ミツコ」の100周年(2019年)記念の限定版ボトルなどにも同社の金箔が採用されている。「こうしたコラボレーションも、当社のチャレンジを積極的に発信してきたおかげで実現しました」と広報担当は言う。2017年には、同社の製品が、日米首脳会談の際の米国大統領への贈答品として選ばれてもいる。

2019年の「ゲラン」の「ミツコ」フレグランスの100周年を記念した、金箔で覆われた香水ボトル

現在では金箔メーカーの中でトップランナーとなった同社は、伝統産業である金沢の金箔を、世界的なブランドとして押し上げつつあると言えよう。

* Highlighting Japan 2022年10月号「金沢の金箔」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202210/202210_06_jp.html