知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方
遺言は、自分の財産を誰にどのように残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための手段です。遺言書は、本人が自筆で作成することもできますが、正しく作成していないと無効になってしまうこともあります。また、遺言書を自宅に保管していると、紛失や盗難、偽造や改ざんのおそれがあったり、せっかく書いても発見されなかったりすることがあります。そこで無効にならないための自筆証書遺言に係る遺言書(以下「自筆証書遺言書」といいます。)の書きかた、保管の仕方を紹介します。
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あなたの最後の手紙を守ります~自筆証書遺言書保管制度【字幕付】
(2分49秒)
自筆証書遺言書保管制度は、自身で作成した遺言書を法務局が保管します。紛失や消失、改ざんや隠匿のおそれがなく、遺言者の死後に法務局が相続人に遺言書の保管を通知します。円満で円滑な相続のためにもぜひ利用をご検討下さい。【字幕付】
ナレーション:貫地谷しほり
1遺言書にはどんな種類があるの?
個人が亡くなった後の財産は、遺言書がない場合は、相続人全員の話し合いによって遺産の分け方が決められますが、「法定相続人以外にも財産を残したい人がいる」「不動産を特定の相続人に相続させたい」「遺産分割で争いになるのを避けたい」等という意思や想いがある場合、遺言書が必要です。一般的に用いられる遺言書として、遺言者自らが手書きで書く「自筆証書遺言」と、公証人(※1)が遺言者から聞いた内容を文章にまとめ公正証書として作成する「公正証書遺言」があります(※2)。
※1:公証人は、公正証書の作成、定款や私文書の認証などを行う公務員。
※2:このほか、利用数は少ないですが、内容を秘密にしたまま、存在だけを公証人と証人2人以上で証明してもらう「秘密証書遺言」があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、自分(遺言者)が、遺言の全文、日付、氏名を自分で手書きして、押印をする遺言書です。遺言書の本文はパソコンや代筆で作成できませんが、民法改正によって、平成31年(2019年)1月13日以降、財産目録をパソコンや代筆でも作成できるようになりました。なお、財産目録は、預貯金通帳の写しや不動産(土地・建物)の登記事項証明書などの資料を添付する方法で作成できますが、その場合には、全てのページに署名と押印が必要になります。自筆証書遺言の長所・短所は、次のとおりです。
(1)自筆証書遺言の長所
- 作成に費用がかからず、いつでも手軽に書き直せる。
- 遺言の内容を自分以外に秘密にすることができる。
(2)自筆証書遺言の短所
- 一定の要件を満たしていないと、遺言が無効になるおそれがある。
- 遺言書が紛失したり、忘れ去られたりするおそれがある。
- 遺言書が勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがある。
- 遺言者の死亡後、遺言書の保管者や相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して、検認の手続が必要になる。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公正役場で証人2人以上の立会いの下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に述べて、公証人の筆記により作成してもらう遺言書です。遺言書の原本は、公証役場で保管されます。
公正証書遺言の長所・短所は、次のとおりです。
(1)公正証書遺言の長所
- 法律知識がなくても、公証人という法律の専門家が遺言書作成を手がけてくれるので、遺言書が無効になる可能性が低い。
- 勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがない。
- 家庭裁判所での検認の手続が不要。
(2)公正証書遺言の短所
- 証人2人が必要。
- 費用や手間がかかる(遺言書の作成費用は、目的の価額に応じて設定されます。)。
2自筆証書遺言書保管制度とは?
自筆証書遺言書は、紙とペン、印鑑があれば特別な費用もかからず1人で作成できます。しかし、せっかく遺言書を作成しても、上述のとおり、一定の要件を満たす必要があり不備があると無効になってしまう場合があります。また、自宅で保管している間に、遺言書が改ざん・偽造されたり、紛失したりするおそれもあります。さらには、遺族が遺言書の存在に気がつかないということもあります。
そこで、自筆証書遺言の手軽さなどの利点を生かしつつ、こうした問題を解消するため、自筆証書遺言書とその画像データを法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」が、令和2年(2020年)7月10日からスタートしています。この制度は、全国312か所の法務局で利用することができます(制度が利用できる法務局を「遺言書保管所」といいますが、この記事では単に「法務局」といいます。)。この制度の長所は次のようなものです。
自筆証書遺言書保管制度の長所
(1)適切な保管によって紛失や盗難、偽造や改ざんを防げる
法務局で、遺言書の原本と、その画像データが保管されるため、紛失や盗難のおそれがありません。また、法務局で保管するため、偽造や改ざんのおそれもありません。それにより、遺言者の生前の意思が守られます。
(2)無効な遺言書になりにくい
民法が定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて法務局職員が確認するため、外形的なチェックが受けられます。ただし、遺言書の有効性を保証するものではありません。
(3)相続人に発見してもらいやすくなる
遺言者が亡くなったときに、あらかじめ指定されたかたへ遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらえます。
この通知は、遺言者があらかじめ希望した場合に限り実施されるもので、遺言書保管官(遺言書保管の業務を担っている法務局職員です。)が、遺言者の死亡の事実を確認したときに実施されます。これにより、遺言書が発見されないことを防ぎ、遺言書に沿った遺産相続を行うことができます。
(4)検認手続が不要になる
遺言者が亡くなった後、遺言書(公正証書遺言書を除く。)を開封する際には、偽造や改ざんを防ぐため、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要があります。この検認を受けなければ、遺言書に基づく不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができません。しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認が不要となり、相続人等が速やかに遺言書の内容を実行できます。
自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、安心して遺言書を残すことができます。
では、どのように遺言書を作成したらいいのか、遺言書を作成したら、どのように法務局に預ければいいのかを、以下の章で紹介します。
3自筆証書遺言書を作成する際の注意点は?
遺言書は、遺産相続に自分の意思を反映するためのものなので、まずは、自分の財産をリスト化して、整理しましょう。遺言書には、誰に、どの財産を、どのぐらい残すかを具体的に記載する必要があります。自筆証書遺言書は、民法に定められた最低限守るべき要件を満たしていないと、せっかく作成しても無効になってしまいますので注意が必要です。
民法で定められた自筆証書遺言書の要件
(1)遺言書の全文、日付、氏名の自書と押印
- 遺言者本人が、遺言書の本文の全てを自書する。
- 日付は、遺言書を作成した年月日を具体的に記載する。
- 遺言者が署名する。
(自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、住民票の記載どおりに署名する。) - 押印は認印でも問題ありません。
(2)自書によらない財産目録を添付する場合
- 財産目録は、パソコンで作成した目録や預金通帳や登記事項証明書等のコピーなどを添付する方法でも作成可能です。その場合は各ページに自書による署名と押印が必要です(両面コピーなどの場合は両面に署名・押印が必要です。)。
- 自書によらない財産目録は、本文が記載された用紙とは別の用紙で作成する。
(3)書き間違った場合の変更・追加
- 遺言書を変更する場合には、従前の記載に二重線を引き、訂正のための押印が必要です。また、適宜の場所に変更場所の指示、変更した旨、署名が必要です。
4自筆証書遺言書保管制度を利用する際の注意点は?
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、遺言書の様式が決まっているので、決められた様式で遺言書を作成する必要があります。
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合の様式
- 用紙はA4サイズ、裏面には何も記載しない。
- 上側5ミリメートル、下側10ミリメートル、左側20ミリメートル、右側5ミリメートルの余白を確保する。
- 遺言書本文、財産目録には、各ページに通し番号でページ番号を記載する。
- 複数ページでも綴じ合わせない。
遺言書の記載例
(画像提供:法務省)
作成時の注意事項
- 誰に、どの財産を残すか財産と人物を特定して記載する。
- 財産目録を添付する場合は、別紙1、別紙2などとして財産を特定する。
- 財産目録にコピーを添付する場合は、その内容が明確に読み取れるように鮮明に写っていることが必要。
- 推定相続人の場合は「相続させる」または「遺贈する」、推定相続人以外の者に対しては「遺贈する」と記載する。
なお、法務局では遺言書の内容に関する相談には応じることができませんので、もし、遺言書の内容に関して不明な点がある場合や相談したい場合は、弁護士等の法律の専門家にご相談ください。
5自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けるには?
遺言書を法務局で保管するためには、遺言者本人が法務局に出向いて、保管の申請手続をする必要があります。
(1)管轄の法務局を選ぶ
自筆証書遺言書保管制度を利用できる法務局は、全国に312か所あります。その中から、次のいずれかを管轄する法務局で申請手続をします。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産所在地
(2)申請書を記入する
法務局への保管申請は、申請書を提出して行います。申請書は、法務省「申請書/届出書/請求書等」からダウンロードできます。また、最寄りの法務局の窓口でも入手できます。
申請書には、遺言者の氏名、生年月日、住所などのほか、遺産を受け取る人(受遺者)の氏名や住所などを記載します。
また、遺言者が亡くなった時に、遺言者があらかじめ指定したかたに対して、通知を希望する場合は、申請書のうち、「死亡時の通知の対象者欄」にチェックを入れて、必要事項を記載すると、通知が実施されます。
(3)事前予約をする
法務局で行う手続は、事前予約制です。スムーズに手続をするために、必ず予約専用ウェブサイト、電話または窓口であらかじめ予約する必要があります。
- ウェブサイトで予約
- 「法務局手続案内予約サービス」ポータル
- 電話または窓口で予約
- 法務省「法務局・地方法務局所在地一覧」
自筆証書遺言書制度について、さらに詳しい情報は下記のウェブサイトをご覧ください。
(4)申請する
予約した日時に申請に必要な書類を持って、法務局に行き、申請を行います。
[必要書類]
- 自筆証書遺言書
- 申請書
- 本人確認書類(官公庁から発行された顔写真付きの身分証明書)
- 本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等
- 遺言書が外国語により記載されているときは日本語による翻訳文
- 3,900円分の収入印紙(遺言書保管手数料)
必要な書類に不足等がなければ、原本とその画像データが保管され、保管証が渡されます。この保管証には、遺言者の氏名、出生の年月日、手続を行った法務局の名称・保管番号が記載されます。なお、保管証は再発行されませんので、大切に保管してください。
手続に必要な書類や流れについて、詳しくは法務省のウェブサイトをご確認ください。
関連リンクコラム1
自筆証書遺言書保管制度で、相続人等は何ができるの?
遺言者が亡くなると、相続が開始します。遺言者が自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合、相続人等は、法務局で主に次の手続ができます。なお、これらの手続は、遺言者が亡くなった後(相続開始後)でなければ、行うことができません。
遺言書が預けられているか確認する
相続が開始されると、相続人等は、自分が相続人等になっている特定の遺言者の遺言書が保管されているかどうかの証明書(遺言書保管事実証明書)を取得できます。
遺言書の写しを取得する
自分を相続人等とする遺言書が保管されているというが遺言書保管事実証明書で確認ができた場合に、遺言書の写し(遺言書情報証明書)を取得できます。この証明書があれば、不動産の相続登記や各種手続に利用できます。家庭裁判所での検認の必要はありません。 また、相続人等の1人が、この証明書を取得した場合には、他の相続人等へ、遺言書が保管されている旨の通知が法務局から送られます。
各手続に必要な書類や流れは法務省「相続人等の手続」をご確認ください。
コラム2
2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました
令和6年(2024年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。相続等により不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが必要になります。
また、遺産分割協議が行われた場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請することが必要になります。
なお、上記のいずれの場合でも正当な理由がないのに申請をしなかった場合には、10万円以下の過料の適用対象となります。
(取材協力 法務省 文責 政府広報オンライン)