ビルの高層階を大きく揺らす「長周期地震動」緊急地震速報に追加!
大きな地震が発生したときに、高層ビルでは船に乗っているような揺れを感じることがあります。このようなゆっくりとした大きな揺れを「長周期地震動」といいます。高層ビルを襲う「長周期地震動」が恐ろしいのは、震源から数百キロ離れている場所でも大きな揺れをもたらし、ゆっくりとした揺れが長い時間続くことです。気象庁は令和5年(2023年)2月から長周期地震動による被害の可能性がある場合も、緊急地震速報を発表することにしました。「長周期地震動」について理解し、事前にどんな対策をすれば良いのか紹介します。
1長周期地震動ってなに?
揺れが1往復するのにかかる時間を「周期」といいます。地震が起きると様々な周期を持つ揺れ(地震動)が発生します。ガタガタと小刻みに揺れる周期の短い揺れに加え、大きな地震では船に乗っているような周期の長い揺れが発生します。これを「長周期地震動」といい、特徴は次のとおりです。
長周期地震動の特徴
マグニチュードが大きい地震ほど長い周期の揺れが大きくなる
特に、震源が浅く大きな地震ほど長周期地震動が発生しやすくなります。
地震が発生した場所から数百キロメートル離れた場所でも大きく長く揺れる
短い周期の揺れに比べて弱まりにくく、遠くまで伝わります。
ビルの高層階ほど揺れやすい
建物には固有の揺れやすい周期(固有周期)があり、地震の周期と建物の固有周期が一致すると「共振」して、建物が大きく揺れます。
震源から離れた場所では、震度が小さくてもビルの高層階で大きな揺れになることがあります。特にビルの下の階より上の階のほうが大きく長く揺れます。
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(※)が発生したときに、高層ビルが大きく左右に揺れていたのをご覧になった方も多いのではないでしょうか。
※「東北地方太平洋沖地震」は、2011年3月11日に三陸沖で発生した「地震」の名称で、この地震によって引き起こされた「災害」を総称して「東日本大震災」と呼びます。
長周期地震動で、どんなことが起こるの?
周期の短い地震動では一戸建て住宅や低層の建築物が強く揺れ、数秒から数十秒で揺れが収まるケースがほとんどです。一方で長周期地震動が発生すると、高層ビルが長い時間にわたって大きく揺れ続けることがあります。このとき建物に大きな変形が生じたり、高層階で家具類が倒れたり大きく移動して人に衝突するなどの危険性があります。実際、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、東京23区(最大震度5強)の高層ビルで、天井の落下、スプリンクラーの故障、エレベーターの障害などが起きています。さらに、震源から約700km離れた大阪市(最大震度3)のビルの高層階でも、エレベーター停止による閉じ込め事故、内装材や防火扉が破損するなどの被害が発生しました。
写真:東京都内の同じビルにおける低層階と高層階の被害状況(画像:工学院大学)
2長周期地震動にも大きい小さいがあるの?
地震による揺れの強さを表す指標には「震度」がありますが、気象庁が発表している震度は、原則として地表や低層建物の一階に設置した震度計による観測値で、長周期地震動の揺れの大きさは表現できません。そのため、震度とは異なる「長周期地震動階級」という指標で、長周期地震動の揺れの大きさを表します。長周期地震動階級には、「階級1」から「階級4」の4段階の区分があります。
長周期地震動によってビルの高層階の部屋の中ではどのくらい揺れるのかを解説した動画も公表されています。
また、気象庁のウェブサイトでは、最新の地震や過去の地震の長周期地震動がどのくらいだったかをお知らせしています。
3緊急地震速報が発表されたときは?
令和5年(2023年)2月から長周期地震動による被害の可能性がある場合も緊急地震速報を発表
気象庁では、「最大震度5弱以上」を予想した地震について震度4以上の地域を対象に緊急地震速報を発表していますが、令和5年(2023年)2月からは、新たに「長周期地震動階級3以上」を予想した地域にも緊急地震速報を発表します。一度、震源の近くの地域に緊急地震速報が発表されたあと、長周期地震動が予測される別の地域に追加で発表されることもあります。
緊急地震速報が発表されたときに身を守るための行動
普段、高層ビルのオフィスに勤めていたり、マンションの高層階に住んでいたりしなくても、例えば高層の商業ビルなどに買い物に出かけているときに、長周期地震動による揺れに遭遇する可能性があります。
緊急地震速報を見聞きした場合には、これまでどおり、まずは安全な場所で身を守る行動をとってください。慌てて逃げると落下物や家具の転倒に巻き込まれ、危険な場合があります。
マンションの室内では
頭を保護し、固定された丈夫な机の下など安全な場所に避難
大きな揺れで飛ばされないよう体勢を低くして身の安全を確保する。
無理に火を消そうとしない。
商業ビルや大規模店舗などでは
安全な場所で頭を保護し、揺れに備えて安全な姿勢をとる。
吊り下がっている照明などの下から退避する。
あわてて出口や階段に殺到しない。
施設の係員や館内アナウンスなどの指示があれば、それに従う。
エレベーターでは
最寄りの階で停止させて、すぐに降りる。
移動のときには絶対にエレベーターを使わない。
4長周期地震動への備えは?
皆さんがマンションやオフィスで過ごすとき、商業ビルなどにいるとき、震源から遠く離れていても長周期地震動による揺れが来ることがあります。事前に安全な場所はどこか確認し、地震発生のときにどう行動するのかを決めておくことが大切です。また、室内の家具類やオフィス機器の固定などを再確認して、長周期地震動からご自身を守るための準備をしておいてください。
家具類の転倒・落下・移動による被害を防止する対策の例
- 寝る場所の近くにはできるだけ家具類を置かない。
- 背の低い家具にする。
- キャスター付きの家具はキャスターロックで移動を防止する。
- 棚に収納するときは重い物を下に。
- 本棚などは本が落ちてこないよう落下防止バーを設置する。
- 吊り下げ式の照明はワイヤーで固定する。
(取材協力:気象庁 文責:政府広報オンライン)