大人になって気づく発達障害 ひとりで悩まず専門相談窓口に相談を!
他人とのコミュニケーションが苦手、その場の空気が読めない、遅刻や忘れ物が多い…。もしかしたら「発達障害」が原因かもしれません。発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いによるものです。こどものころには気づかずに過ごしていたけれど、大人になってから周囲に適応しづらくなり気がつく場合もあります。また、発達障害かなと感じたときの相談窓口や発達障害のある人と共に働く上でのポイントを紹介します。
1大人になって発達障害に気がつくのはなぜ?
発達障害は、自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害、チック症、吃音など、生まれつきみられる脳の発達の違いによるものです。発達障害のある人は、脳機能の発達がアンバランスであるために行動や態度に様々な特性が現れます。本人のやる気や努力不足、保護者の育て方などにより起因するものではありません。
発達障害は生まれながらの脳の働き方の違いなので、「大人になってから発達障害になる」というわけではありません。多くの場合、発達障害の特性はこどもの頃から現れますが、その頃は、その特性を個性の一つとして捉えられたり、周囲からフォローされたりするため、本人も周囲の人も発達障害と気づかずに大人になることも少なくありません。しかし、進学や就職で社会に出ると、人間関係は複雑になり、様々な人とコミュニケーションをとることになります。また、相手の表情からすべきことを察したり、周囲に合わせて行動したり、仕事を計画的に進行するなど社会性を要求されます。このようなときに、潜在的に持っていた発達障害の特性が浮かび上がってきて、人間関係や仕事でつまずいてしまい、そのとき初めて発達障害に気づくケースがあります。
発達障害の特性は、環境との相互作用によって欠点になることも長所になることもあります。苦手なことは工夫することによって生きやすくなることもありますし、得意なことで大きな力を発揮する人も少なくありません。まずは、発達障害のある人もその周囲の人も、発達障害について正しく理解することから始めましょう。
次の章では、大人の発達障害に多い特性を紹介します。
2発達障害ごとの行動の特徴は?
発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害、チック症、吃音など、様々な種類があり、複数の障害が重なって現われることもあります。また、障害の程度や年齢、生活環境などによっても症状は違います。
その中でも「大人の発達障害」で多い特性として 、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を挙げて、「社会生活の中でつまずきやすいこと」「得意なこと」を紹介します。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症の特性
- 言葉や視線、表情、身振りなどで他人とコミュニケーションをとるのが苦手
- 他人に対する興味が薄く、相手の気持ちや状況を理解することが苦手
- 特定のことに強い関心を持っていたり、こだわりが強かったりする。
- 音や匂いなど感覚の過敏さを持ち合わせている場合がある。
社会生活の中でつまずきやすいこと
- 悪気はないのに、言動によって相手を怒らせてしまう。
- 相手の表情や身振りから、相手の気持ちを汲み取れない。
- 興味のある分野の話をすると夢中になって話してしまう。
- 相手と会話がかみ合わない。
- 一方的なコミュニケーションをとってしまう。
- 面接が苦手で就職活動がうまくいかない。
- 指示が曖昧な仕事の対応ができない。
- 仕事をする中で臨機応変に業務ができない。
- 複数の業務を並行して取り組むことができない。
得意なこと
- ルールを守る真面目さや細やかさがある。
- 行動に裏表がなく、誠実
- 視覚的(又は聴覚的)な記憶力が優れている。
- 特定分野に関する知識が豊富
- 一つのことをコツコツと集中して行うことができる。 など
注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症(ADHD)の特性
- 注意し続けることができず作業にミスを生じやすい(注意欠如)。
- 落ち着きがない・待つことができない(多動性・衝動性)。
※注意欠如と多動性・衝動性の両方がある場合と、どちらか一方が顕著に現れる場合があります。
社会生活の中でつまずきやすいこと
- 整理整頓が苦手
- 集中ができず、ケアレスミスが多い。
- 忘れ物や落とし物、遅刻が多い。
- 頼まれていた仕事や約束を忘れる。
- 人が話している間に発言する。
- スケジュール管理・タスク管理が苦手
得意なこと
- 発想力や独創性に富んでいる。
- 好奇心が強い。
- 行動力や決断力がある。
- 興味のあることは抜群の集中力を発揮する。
学習障害、チック症、吃音については、こころの情報サイト「発達障害(神経発達症)」で説明しています。
3発達障害かなと思ったときの相談先は?
発達障害の特性から生活や仕事の中でつまずいたり、困難が続いて生きづらさを感じたりして、ストレス状態が続くと、抑うつ的になったり突発的にパニック状態になるなどの症状が出現してしまうおそれがあります。「自分は他の人とちょっと違うかも」とか「もしかしたら発達障害なのかもしれない」と思ったときは、ひとりで抱え込まずに、まずは、専門の相談窓口や医療機関へ相談してみませんか。
相談することで、専門家による困りごとの相談やサポート、行政による就職や就労について支援を受けられます。
発達障害の特性をもっていても、早めに自身の特性に気づき、ちょっとした工夫を行ったり、その特性を周囲に伝えて支援を受けたりすることで、気持ちが楽になったり、自分らしくスムーズに社会生活を送れるかもしれません。
発達障害の症状についての相談
医療機関の「精神科」か「心療内科」
大人の発達障害の検査や診断は、「精神科」又は「心療内科」で行っています。お近くの「精神科」「心療内科」のある医療機関を調べ、発達障害の診断を行っているかどうか問い合わせてみてください。自治体によっては発達障害の診断を行っている医療機関のリストや相談窓口を公開しているところもあります。
発達障害についての相談窓口や支援
全国の発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある人への支援を総合的に行う専門機関です。発達障害のある人とその家族が豊かな地域生活を送れるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの分野の関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害のある人の日常生活や仕事、人間関係など、幅広い相談に応じています。ご家族からの相談も受け付けています。
発達障害全般に関する情報収集
発達障害ナビポータル
国が提供する発達障害に特化したポータルサイトです。発達障害について信頼のおける情報を発信しています。
生活や仕事についての相談
障害者就業・生活支援センター
障害のある人の生活と仕事を、両面から相談ができる機関です。健康管理やお金の管理のほか、就職や就労に関することも相談できます。
ハローワーク
就職を希望するかたの求職登録を行い、専門職員や職業相談員が障害の種類や程度に応じてきめ細かな職業の相談や紹介のほか、職場定着の指導などを行います。
地域障害者職業センター
障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を行っています。
コラム
発達障害のある人と共に働く上でのポイントは?
発達障害の中には様々な種類があり、その特性や程度は一人ひとり異なります。まず、本人をよく知る専門家や家族と一緒に「得意なことや強みは何か、苦手なことやサポートが必要なことは何か」を理解し、サポートのコツを共に考えて、その人に合ったサポートを工夫しましょう。
ここでは、発達障害がある人が職場で力を発揮するために配慮が必要な基本的なポイントの例をいくつかご紹介しますので、参考にしてください。あくまで例ですので、全ての人に全ての配慮が必要なわけではありません。必要な配慮は一人ひとり異なります。
その上で、気になることが生じた場合やコミュニケーションなどがうまくいかないと感じた場合は、職場内の指導・管理担当者等に相談してください。また、本人も周囲もお互いに理解し合える関係になってきたら、個々の特性に応じた柔軟で自然な関係を作りましょう。障害の有無に関わらず、急な関係作りは難しいものです。時間をかけて、相手をじっくり知り、誰もが安心して働ける職場づくりを目指しましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)の人への配慮のポイントの例
- 指示を急に変更しない。
- 指示を曖昧に伝えず、肯定的、具体的、視覚的な伝え方を工夫する。
(具体例)「○○をしましょう」といったシンプルな伝え方、その人の興味関心に沿った内容や図・イラストなどを使って説明する。 - 複数段階のある業務は、業務達成目標の段階を細かく分けて少しずつ達成を目指す「スモールステップ」とする。
(具体例)手順を示す、モデルを見せる、体験練習をする、新しく挑戦する部分は少しずつにするなど。 - 音や光に過敏な人には配慮する。
(具体例)イヤーマフを活用する、大声で説明せずホワイトボードで内容を伝える、人とぶつからないように居場所をつい立てなどで区切るなど。
注意欠如・多動症(ADHD)の人への配慮のポイントの例
- 短く、はっきりとした言い方で伝える。
- 指示は文書にして伝える。
- 一度に多くのことを頼まない。
- 気が散らないようデスクに余計な物を置かない、座席の位置を工夫する。
- 分かりやすいルール提示などに配慮する。
- 締切や約束は、余裕を持って伝える。
- できたことを褒める、できないことを叱らない。
その他の発達障害の人への配慮のポイントの例
- 叱ったり拒否的な態度を取ったり、笑ったり、ひやかしたりしない。
- 日常的な行動の一つとして受け止め、時間をかけて待つ。
- 苦手なことに無理に取り組まず、できることで活躍する環境を作る。
- 楽に過ごせる方法を一緒に考える。
得意な部分を積極的に使って情報を理解し、表現できるようにする。
(例)文字を大きくしたり行間を空けたりなど、読みやすくなるように工夫する。 - 苦手な部分は、課題の量・質を適切に加減し、柔軟な評価をする。
コラム
世界自閉症啓発デー、発達障害啓発週間
毎年4月2日は国連が定める「世界自閉症啓発デー」、毎年4月2日から8日は「発達障害啓発週間」です。自閉症や発達障害のことを多くのかたに正しく知っていただくため、日本各地で啓発イベントが行われます。
(取材協力:厚生労働省 文責:政府広報オンライン)