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  • 廃炉作業が進む福島第一原子力発電所
  • 福島第一原子力発電所を視察する地元住民
  • 米の放射性物質検査。福島県では、放射性物質検査により、市場に流通する食品の安全性を確保している。

March 2021

東日本大震災から10年:原子力発電事故からの復興

廃炉作業が進む福島第一原子力発電所

東日本大震災から10年が経った福島県では、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や、周辺地域への住民の帰還、産業の復興が着実に進んでいる。

福島第一原子力発電所を視察する地元住民

2011年3月11日、東北地方の太平洋沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生、東北地方と関東地方の太平洋沿岸に大津波が襲った。東京電力が運転する福島第一原子力発電所では、全ての電源を喪失し、原子炉の安定的な冷却機能が失われた。その結果、炉心が損傷し、放射性物質が放出された。事故直後、福島第一原子力発電所周辺の12の自治体に避難指示が発出され、約16万人(地震による避難者も含む)の住民が、福島県内のみならず日本全国各地へ避難した。

福島第一原子力発電所の廃炉

福島第一原子力発電所では、事故直後、原子炉の冷却などの対策が行われた結果、2011年12月には、原子炉の温度が十分に低下し、大気中への放射性物質の放出が大幅に抑えられた「冷温停止状態」を達成した。その後、政府は発電所の廃炉を決定、「30~40年後」の廃炉に向けて策定した「東京電力ホールディングス(株)福島原子力発電所1〜4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」を踏まえ、安全を最優先に廃炉作業を進めている。

廃炉に向けた作業として、主に、燃料の取り出し、溶け落ちた燃料と構造物が混じり固まった「燃料デブリ」の取り出しに向けた準備、汚染水対策などが行われてきている。事故が起きた1号機から4号機まで、4機の使用済燃料プールに残された3,000体以上の燃料は、遠隔操作技術を活用しながら、2021年2月現在、およそ3分の2の取り出しを完了した。2019年には、燃料デブリの一部にロボットアームを接触させ、デブリが動かせる状態であることを確認するなど、廃炉作業の中でも最難関であるデブリ取り出しに向け、更なる研究開発が進められている。

また、燃料デブリの冷却などによって発生する、放射性物質を含んだ汚染水の発生量の低減、浄化処理も進んでいる。汚染水起因を含め、発電所内の施設からの放射線が敷地外に与える影響は大幅に減少した。また、2020年の汚染水の発生量は2013年と比較すると、およそ4分の1まで減少している。

足下の課題は、汚染水を浄化した後に残る、ALPS処理水と呼ばれる、約120万トンの水の取扱いである。ALPS処理水は、国際的原子力機関(IAEA)の評価も得ながら、放射性物質について定められた規制基準を守り、生活圏への科学的な影響が出ないことを前提とした処分方法が提案されているが、科学的根拠のない風評被害が発生することを懸念する意見もあり、政府は処分方法を慎重に検討している。

米の放射性物質検査。福島県では、放射性物質検査により、市場に流通する食品の安全性を確保している。

地域の復興

発電所の周辺地域では、除染作業や生活インフラ復旧の取組の結果、12の自治体に発令された避難指示は、5つの自治体では全ての地域で、残る7つでも一部地域を除き解除された(避難指示対象人口は、当初の27%まで減少)。現在、本格的な住民帰還と地域の復興が始まっており、避難者数は、事故直後の約16万人から約2.8万人まで減少した。

被災事業者の帰還・事業再開とともに、新たな産業の創出を目指した取組も進んでいる。例えば、「福島イノベーションコースト構想」の下、ロボットやエネルギーなどの分野の最先端技術の集積が図られている。2020年3月には、世界最大級の10MWの水素製造装置を有する「福島水素エネルギー研究フィールド」が完成。福島で製造された水素が、東京オリンピック・パラリンピックの聖火台の燃料としても利用される予定だ。

農林水産物に関しては、徹底した放射性物質検査体制が整備され、安全性が確保されている。原子力発電所事故に伴って、日本産の食品に対して輸入規制を実施する国・地域は、事故直後の54から15まで減少しており、政府は、放射線に関する科学的な知識、農林水産物の安全性に関する情報の発信を継続している。

福島は今、本格的な復興の途上にある。廃炉を完遂するための国際的な技術的協力、消費や観光による地域経済の振興、より多くの人々の福島の現状への理解が、更なる復興の後押しにつながる。