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  • 水害により被害を受けた街の様子

March 2021

ポータブル型水の再生システム

WOTA BOXとシャワー

日本の小さなベンチャー企業が、独自に開発した水質センサーとAI技術を用いて、使用済みの水などを浄化する水処理技術の自動化に成功した。これは、地球上の様々な水不足などの問題解決につながるものという。

WOTA BOX

水は、人が生活する上で欠かすことのできない資源である。しかし、2050年には世界の人口は約97億人を超え、その40パーセントに当たる人々が深刻な水不足に見舞われるようになると予測されている。そんな危機的状況を救う一助になるかもしれない技術が、日本のベンチャー企業が開発した「WOTA BOX」である。

WOTA BOXは、一度使った水を6本のフィルターで浄化する機能を搭載し、何度もリサイクルして使える水再生システム装置。箱のような形状で、大きさは、最新型(2021年2月現在)で、幅82 センチメートル、奥行45 センチメートル、高さ93.3 センチメートル。重さは82キログラムあるものの、車輪が付いている可動式で、手軽に持ち運ぶことが可能な、正にポータブルな装置である。独自開発の水質センサーとAIのディープラーニングによって、安全で清潔な水を全自動で再生させ、専用のシャワーキットを接続すれば、いつでもどこでも再生された水を使ってシャワーを浴びることができる。こちらは、専用の給湯ユニットと接続することで、37度から50度までの温水を供給できる。

開発したのは、2014年に東京大学大学院の学生が起業したベンチャー企業・WOTA株式会社。同社は創業時から一貫して、水に関する社会課題を解決するための機器やシステムの開発を行ってきた。市橋正太郎(いちはし・しょうたろう)執行役員チーフコミュニティオフィサーは、この水再生システムの特徴についてこう語る。

「一言で言えば、大規模な浄水処理場の設備をコンパクトにしたシステムを開発しました。自律分散型水循環システムとは、センサーとAIによって、使用済みの水の水質を分析し、その結果から、浄化するために使用するフィルターの種類、フィルターにかける水圧、塩素や紫外線による殺菌などを、その場ですばやく、自動的に判断して処理を行うシステムですが、それを搭載した小型装置を作ることに成功したものです。この水質管理技術を用いることで、排水の98パーセントを再利用でき、水に含まれる砂やほこり、臭い、細菌やウイルスなどを、国で定める公衆浴場の水質基準をクリアするレベルまで浄化することができます」

センサーから集めた水の流量、汚れの質などのデータは、ネットワークを通じてサーバーに送られ、AIがそれを学習する。その結果を各機器にフィードバックすることで、より効率的な水処理が行えるようになる。つまり、使えば使うほど、その実績データが蓄積されて性能がアップしていくというわけだ。

水害により被害を受けた街の様子

通常、1人がシャワーを浴びる際には約50リットルの水が必要だが、WOTA BOXなら50倍の効率で水を利用できるため、1人がシャワーを浴びるのに約1リットルしか水を必要としない。試作した当初は主にキャンプ場やスポーツイベントなどでの利用を想定してきたが、2018年の西日本豪雨をきっかけに、数多くの被災地で活用されることとなった。これまでに日本の各地で災害が起きた際に設けられた避難所において、WOTA BOXを使用してシャワーを利用した人は延べ2万人以上に上るという。

「2019年9月に日本列島を襲った大型台風では、東京から新幹線で約1時間40分ほどの距離にある長野県の長野市などで河川が氾濫し、浄水場も甚大な被害を受け、住民約2万人が最長で2か月間、避難所生活を強いられました。私たちは14台のWOTA BOXを持ち込み、入浴支援を行ったのですが、『足が不自由なので入浴施設まで行くことができなかったが、避難所のそばでシャワーを浴びられてありがたい』『シャワールームで一人きりの時間を過ごすことができて心が穏やかになった』など、感謝の言葉を数多く頂けたことがうれしかったですね」

高度経済成長期等に急速に整備された日本の水道施設は老朽化が進行し、大規模な更新ピークを迎えようとしている。市橋さんは、こうした課題に対して、二つのアプローチを構想しているという。

「一つ目は、自律分散型の水循環システムを構築し普及すること。家庭やオフィスで雨水などを溜め、それをWOTAの装置で循環利用すると、大規模処理場から各家庭へ水道管を張り巡らせる必要がなくなります。二つ目は、水処理場の運用管理コストを下げること。技術者が行っている作業をセンサーやAI技術の活用によって自動化すれば、大幅なコストダウンにつながります。私たちの技術で、日本の、そして世界の水不足の問題を少しでも解決していきたいですね」

 この技術の普及が、世界の水不足といった問題の解決につながる可能性を秘めている。

WOTA BOX + 野外シャワーキット
ポータブル型の水再生システム