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March 2022

東北のこけし

  • 創作こけしの例
  • 伝統的なこけし
  • こけしの胴体をつくる作業の様子
  • 絵つけの様子
創作こけしの例

日本の東北地方に伝わる木製の伝統的な人形玩具「こけし」は、丸い頭に円筒状の胴に表情のある顔や胴体の模様を描いたものが典型的な形であるが、純朴な民芸品として今でも人気が高い。こけしを作る職人「こけし工人」たちは、制作する伝統技術を次世代へつなぎながら、新たな創作こけしにも意欲的に取り組んでいる。

伝統的なこけし

古くから東北地方の山間部には、伐り出した材木をろくろ*で削り出し、椀や盆などを作る木地師(きじし)の集落が点在していた。こけしは、こうした木地師たちが仕事の合間に作った玩具が起源だと言われている。球形の頭部と円柱の胴体を組み合わせたこけしは、産地ごとに特徴があり、それぞれ形や表情は微妙に異なる。現在、東北6県には11系統の伝統こけしがあり、そのうち宮城県や山形県内の5系統**は国の伝統的工芸品に指定されている。

今から200年あまり前から、これらのこけしは、主に温泉地のお土産として作られるようになって、それが今日に至っている。

その一つ、鳴子温泉に工房『こけしの岡仁』を構えるこけし工人で、宮城伝統こけし組合連合会の事務局長を務める岡崎靖男さんは「かつて農民は、農閑期になると湯治場に滞在して、その年の疲れを癒やす習慣がありました。そのとき子どもへのお土産として買って帰ったのがこけしだったのです」と言う。

こけし作りは、明治時代(1868年~1912年)にかけて盛んになったが、子どもの玩具として、欧米風の人形やぬいぐるみが普及すると衰退してしまう。しかし、1930年ごろから民芸品として骨董好きの人たちのコレクション対象として注目されるようになってゆく。そして、戦後の高度経済成長期(1960~70年代頃)には東北地方を旅行した際の記念品や土産として再び人気を集めるようになった。

伝統的なこけしができあがるまでには、六つの工程がある。宮城県の温泉地である鳴子で作られる鳴子系のこけしの場合、まず原木を伐採し乾燥させる。そして、寸法に合わせて切断する。頭と胴体をろくろで削った後、首を差し込む穴を胴体から削り出す。そして、ろくろを回しながら、摩擦を使って、頭を胴体にはめ込む。最後に、顔や胴体の模様を描き、ろうを塗って仕上げる。首をきつくはめ込むことで、頭を回すと「キュッキュッ」と音がするようになる。こうした作業はすべて一人で行うため、同じ系統のこけしでも工人ごとの個性が生まれ、更には全てを手作業で行うため、一つとして同じこけしは存在しない。

こけしの胴体をつくる作業の様子
絵つけの様子

「こけしは、見る人に安らぎを与えるために、その表情が何より大切で、なかでも最初に描く眉と目で出来の善し悪しが決まると言っても過言ではありません。ただし、慎重になるあまり筆の動きが遅すぎると墨がにじんでしまいます。スッと一息に描ききらなければならないのですよ」と岡崎さんは言う。

そんなこけしに新しい動きがある。10年ほど前からこけしファンの間で『こけ女』と呼ばれる若い女性が急増し、その影響でこけし作りにも変化が生まれ始めている。それが伝統的な姿形にとらわれない創作こけしである。最近はひな祭り(こちらを参照)に飾る雛こけしや動物などをモチーフにしたかわいらしい作品が人気で、更にはペン立てになったり、地震の揺れで倒れるとLEDの明かりが自動点灯するこけしなど、日常生活での使用を意識したものも登場している。

今年68歳になる岡崎さんも伝統こけしだけでなく、創作こけしにも取組む工人の一人だ。しかし、岡崎さんは、伝統こけしも創作こけしも、作り方は基本的に何も変わらないという。こけし工人たちは代々受け継いできた技で新たなものを生み出し、こけしの魅力をさらに広げ、次世代へとつないでいこうとしている。

* 木工や陶芸に用いられる回転式の器械で、回転させながら種々の形を作り出す。
* 遠刈田系、弥治郎系、作並系、肘折系、鳴子系