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September 2022

秋の伝統的な京菓子

  • 秋の生菓子。「暮の秋」(左上)と、「渡り鳥のカリ」(上段左から二番目)
  • 楕円形の月見団子
  • 生菓子「もみじ」
  • 笹屋伊織の女将、田丸みゆきさん
  • 生菓子をつくる職人
秋の生菓子。「暮の秋」(左上)と、「渡り鳥のカリ」(上段左から二番目)

老舗(しにせ)和菓子店の笹屋伊織(ささやいおり)は、京都の季節の色を映す菓子をつくり続けている。

生菓子「もみじ」

京都で受け継がれる「京菓子」は洗練された伝統菓子として知られている。

1716年、京都に創業した「笹屋伊織」は、京都御所や、寺社、茶道の家元などから注文を受けて季節ごとの京菓子を作ってきた。

「京都の菓子職人たちは、宮中や寺社の御用達*を目指して技を競い合い、その品質を高めてきました」と、笹屋伊織の女将(おかみ)、田丸みゆきさんは言う。

さらに「京都は茶道発祥の地であり、茶道が盛んです。菓子職人たちは茶会にふさわしい菓子を追求することによって、京菓子ならではの美意識が研ぎ澄まされていったのだと思います」と語る。

楕円形の月見団子

笹屋伊織は、秋には、茶会の席などに供されるお菓子として、紅葉するイチョウやモミジ、渡り鳥のカリ(雁)をモチーフにした「生菓子」をつくる。生菓子とは、シロインゲンマメやシロアズキなどの餡を使い、手仕事で細工される美しい菓子で、季節を少しだけ先取りして店頭に並べられる。たとえば紅葉の生菓子なら、紅葉への期待感が膨らむよう山の木々が色づき始める頃にいただくのが、京都の美意識「雅(みやび)」である。

日本では、9月、1年で月がもっとも美しいとされる「中秋の名月」と呼ばれる月の夜に、米など穀物の粉でつくった「月見団子」を供え、秋の豊作に感謝を捧げながらいただく風習がある。月見団子は丸い形のものが一般的だが、古くは団子でなく収穫したばかりのサトイモを供えていたことから、京都ではサトイモをかたどった楕円形の月見団子が親しまれている。笹屋伊織でも、楕円形でつくっている。

笹屋伊織の女将、田丸みゆきさん

紅葉が始まれば、笹屋伊織では「暮の秋」という深い赤褐色に黄色とオレンジ色を添えた生菓子をつくる。その造形は抽象的だが、「暮の秋」という名前から、紅葉が終わる晩秋の山がイメージできる。このように、季節を形にした一つひとつの生菓子には名前が付けられており、そこからその季節らしい意匠を見て感じることも楽しみだ。

「日本の伝統菓子には一つひとつに祈りと願い、そしてメッセージが込められています。京菓子を通じて季節のうつろいや、ひいては日本人が大切にしてきたことを伝えていくことが、私たちの仕事だと思っています」

生菓子をつくる職人

秋を彩った雅びな京菓子は、その色や形に込められた作り手の心に思いをはせつつ賞味するとよいかもしれない。

* 宮中や官庁に物品を納入すること、またそれを行う商人のこと。