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March 2023

増田三男の金表現

  • 増田三男作「金彩黒銅箱 雑木林月夜」(高さ8.8センチメートル、横18.0センチメートル、奥行8.2センチメートル) (1993年)撮影者:田中学而(国立工芸館所蔵)
  • 増田三男作「金彩水指 瀬」(高さ10.0センチメートル、奥行17.9センチメートル)(1972年)撮影者:田中学而(国立工芸館所蔵)
  • 増田三男作「金彩兎文香爐」(高さ7.1センチメートル、横7.0センチメートル、奥行7.0センチメートル) (1993年)撮影者:田中学而(国立工芸館所蔵)
増田三男作「金彩黒銅箱 雑木林月夜」(高さ8.8センチメートル、横18.0センチメートル、奥行8.2センチメートル) (1993年)撮影者:田中学而(国立工芸館所蔵)

故・増田三男(ますだ みつお。1909〜2009年)は、金の使い方がとりわけ巧みなことで知られる金工家であった。

増田三男作「金彩水指 瀬」(高さ10.0センチメートル、奥行17.9センチメートル)(1972年)撮影者:田中学而(国立工芸館所蔵)

彫金は、金や銀、銅などの金属に、鏨(たがね)*を用いて文様を彫り込んだり、刻印したりするのに使われる技法だ。(参照)

20世紀から21世紀初頭にかけて活躍した著名な金工家に、増田三男(1909〜2009年)がいた。増田は、作品の中で金を効果的に使い、日本の四季の自然や動植物を豊かに表現した金工家として知られる。20歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)入学以来、2009年に100歳の生涯を閉じるまで、約80年にわたって制作活動を続けた。1991年に、国の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されている。

増田が残した作品の中に、1993年制作の「金彩黒銅箱(きんさい くろどうばこ) 雑木林月夜(ぞうきばやしつきよ)」がある(写真参照)。箱の蓋の上にある金色に輝く満月が大きな特徴だ。

「増田の作品の最大の魅力は、目に飛び込んでくる主題となるモチーフにうまく金が使われていることです。金が主題を際立たせ、力強さを生み出す。また、金は経年変化がほとんどない素材ですから、作品のインパクトが変わらないんですね」と、増田の作品を多く収蔵する石川県金沢市の国立工芸館館長の唐澤昌宏(からさわ まさひろ)さんは話す。

彫金における金の使い方には、板状の金を図案に沿って彫り抜く「透彫(すかしぼり)」や、地金に金を埋め込む「象嵌」などがある。雑木林月夜には、彫金の最終工程で、熱で溶かした金と水銀の合金を地金に塗り、バーナーで水銀を蒸発させて金だけを固定する技法「鍍金(ときん)」が用いられている。

増田三男作「金彩兎文香爐」(高さ7.1センチメートル、横7.0センチメートル、奥行7.0センチメートル) (1993年)撮影者:田中学而(国立工芸館所蔵)

「増田が鍍金を使った他の例は1972年の作品『金彩水指(きんさいみずさし) 瀬(せ)』です。この作品の中の色合いの斬新さと銅の地金に金の鍍金という素材の組み合わせが、工芸界に大きな衝撃を与えました。鍍金は金の面積を大きく表現できますからダイナミックな水の流れが表現でき、銅の地金の色や質感とみごとなハーモニーを生んでいます」と唐澤さんは話す。

増田は、生涯の師と仰いだ日本近代陶芸の巨匠・富本憲吉**(とみもと けんきち。1886〜1963年)の「模様から模様をつくるべからず」という教えを守り、生涯、写生を続けながらオリジナルの文様を創造し続けた。そのため増田の作品には、身近な自然風景や動植物を描いたものが多い。

「例えば、1993年の『金彩兎文香爐(きんさい うさぎもん こうろ)』に描かれたウサギは、金属に彫られた線とは思えないほど生き生きとしています。この高度な彫りの技術も、増田の作品の魅力です」と唐澤さんは言う。

増田は、生涯現役を貫いた。鏨の音が響く自宅のアトリエから、金の存在感溢れる数々の作品が生み出されたのだった。

注記: 写真の作品は、国立工芸館に所蔵されていますが、常設展には展示されていません。

* 金属を切ったり削ったりする工具
** 金と銀を同時に焼き付ける技法「色絵金銀彩」を完成させた。