相続した土地を手放したいときの「相続土地国庫帰属制度」
土地を相続したものの、「遠くに住んでいて利用する予定がない」「周りに迷惑がかからないようにきちんと管理するのは経済的な負担が大きい…」。そのような理由で相続した土地を手放したいとき、その土地を国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」という制度があります。本稿では制度の概要や、費用・手続などについて詳しく解説します。
1土地を相続したときどうしたらいいの?
相続した財産に「土地」が含まれていた場合の取扱いには、主に次のような方法が考えられます。
(1)自分で活用
相続によって取得した土地は、基本的には自分で住む、誰かに貸す、売却するなど自分で活用することが考えられます。
(2)相続放棄
相続した土地によっては、活用もできず売却もできない場合があります。その土地の管理費用や固定資産税の負担を考慮して、「相続放棄」という選択も考えられます。
「相続放棄」は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てて、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことにする手続です。これによって不要な土地の相続を行わないことも可能ですが、相続放棄は、不要な土地だけでなく、預貯金や株式など全ての資産の相続権も失うことになるので注意が必要です。
2相続した土地を国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」がスタート
これまでは、相続財産に不要な土地があってもその土地だけを放棄することができず、不要な土地を含め全て相続するか、他の資産も含め全て相続放棄をするかしかありませんでした。
昨今、土地利用のニーズが低下し、土地を相続したものの土地を手放したいと考えるかたが増加する傾向にあります。これらが、相続の際に登記がされないまま土地が放置される「所有者不明土地」が発生する要因の一つと言われています。
所有者不明土地の発生を予防するための方策として、相続登記の申請の義務化などとあわせて、相続した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が創設されることになりました。
所有者不明土地の解消に向けた相続登記の申請の義務化については、以下のページで詳しく解説しています。
「相続土地国庫帰属制度」は、相続又は遺贈(※)によって宅地や田畑、森林などの土地の所有権を相続した人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡す(国庫に帰属させる)ことができる新しい制度です。
不要な相続土地の処分に困っているかたは、この制度の利用も検討の一つに加えてみませんか。
次の章から、どんな人がこの制度を利用できるのか、引き取ってもらうときの要件、費用はいくらなのか、相談先や必要な書類は何か、どうやって申請するのかなどを説明します。
※遺贈とは、自身の財産を遺言によって指定した人へ贈ることをいいます。
3土地を国に引き渡せるのはどんな人?
相続した土地を国に引き渡すための申請ができるのは、相続や遺贈で土地を取得した相続人のかたです。本制度の開始前(令和5年(2023年)4月27日より前)に相続した土地でも申請できます。
また、兄弟など複数の人たちで相続した共同所有の土地でも申請ができます。ただし、その場合は、所有者(共有者)たち全員で申請する必要があります。
なお、生前贈与を受けた相続人、売買などによって自ら土地を取得した人、法人などは、相続や遺贈で土地を取得した相続人ではないため、申請ができません。
4引き渡せる土地の要件は?
相続した土地であっても全ての土地を国に引き渡すことができるわけではなく、引き渡すためには、その土地に建物がないことなど、法令で定める引き取れない土地の要件に当てはまらない必要があります。
次のような土地は、通常の管理や処分をするに当たり多くの費用や労力が必要になるので引き取りの対象外です。
(1)申請の段階で却下となる土地
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2)該当すると判断された場合に不承認となる土地
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
5費用はどのくらいかかるの?
申請する際には、1筆(※1)の土地当たり1万4000円の審査手数料を納付する必要があります。さらに、法務局による審査を経て承認されると、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。負担金は、1筆ごとに20万円が基本となります。同じ種目の土地が隣接していれば、負担金の合算の申出をすることができ、2筆以上でも負担金は20万円が基本となります。なお、一部の市街地の宅地、農用地区域内の農地、森林などについては、面積に応じて負担金を算定するものもあります(下図参照)。
※1「筆」とは、登記上の土地の個数を表す単位
宅地(注1) | 面積にかかわらず、20万円 ただし、一部の市街地(注2)の宅地については、面積に応じ算定(注3) |
---|---|
田、畑 | 面積にかかわらず、20万円 ただし、一部の市街地(注2)、農用地区域の田、畑については、面積に応じて算定(注3) |
森林 | 面積に応じ算定(注3) |
その他 ※雑種地、原野等 |
面積にかかわらず、20万円 |
(注1)直ちに建物の敷地として使用できると認められる土地
(注2)都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域
(注3)面積の単純比例ではなく、面積が多くなるにつれ、1m²当たりの負担金額は低くなる。
負担金の算定式については下記のページをご覧ください。
法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
6手続の流れ
相続土地国庫帰属制度を利用して、相続した土地を国に引き渡すための手続は次のとおりです。
ステップ1:法務局への相談
相談する前に準備するもの
相談時には、次の(1)から(3)の資料を事前にご用意ください。
(1)相続土地国庫帰属相談票
(法務省「相続土地国庫帰属制度の相談対応について」に様式を掲載しています。)
(2)相談したい土地の状況について(チェックシート)
(法務省「相続土地国庫帰属制度の相談対応について」に様式を掲載しています。)
(3)土地の状況等が分かる資料や写真(可能な範囲で)
国に引き渡したい土地の状況などが分かる資料や写真をできるだけ用意してください。
【資料の例】
- 登記事項証明書又は登記簿謄本
- 法務局で取得した地図又は公図の写し
- 法務局で取得した地積測量図
- その他土地の測量図面
- 土地の現況・全体が分かる画像又は写真
これらの資料をもとに国が引き取れる土地に該当するかどうかなどの相談を受け付けます。
相談の方法
相談は、事前予約制で1回30分です。法務局・地方法務局(本局)の窓口で対面相談又は電話相談ができます。
相続土地国庫帰属制度の事前相談の予約は、「法務局手続案内予約サービス」を利用します。
相談先の法務局
承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)で受け付けています。支局・出張所では相談を受け付けていませんので、ご注意ください。
引き渡したい土地がお住まいの地域から遠方にある場合など、承認申請をする土地が所在する法務局・地方法務局(本局)での相談が難しい場合は、お近くの法務局・地方法務局(本局)でも相談できます。
相談ができる人
土地の所有者本人だけではなく、家族や親族のかたも相談できます。ただし、相談者のかたと関係のない土地の相談はできません。
相談の内容
所有している土地を国に引き渡すことができるかどうか知りたい、次のステップで求められる申請書類や添付書類に漏れがないか確認してほしい、といった個別の具体的な相談に対応できます。
ステップ2:申請書類の作成・提出
必要な申請書・添付書類を作成・準備します。
新たに自分で作成する書類
- 承認申請書
- 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
- 承認申請に係る土地及び当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
- 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
用意する書類
- 申請者の印鑑証明書
- 固定資産税評価額証明書(任意)
- 承認申請土地の境界等に関する資料(あれば)
- 申請土地に辿り着くことが難しい場合は現地案内図(任意)
- その他相談時に提出を求められた資料
申請先
土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局です。支局・出張所には提出できません。提出は、窓口に持参する方法と、郵送による方法があります。
申請書には審査手数料の額に相当する収入印紙を貼り、提出します。申請後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果、土地を引き取れないと判断された場合であっても、審査手数料は返ってきませんので注意しましょう。
ステップ3:承認後の負担金の納付
申請された土地について、審査の結果、国が引き取れると判断した場合、帰属の承認の通知とともに、負担金の納付を求める通知が申請者に届きます。
申請者は負担金の納付を求める通知に記載されている負担金額を、当該通知が到達してから30日以内に納付する必要があります。負担金が納付された時点で、土地の所有権が国に移転します。土地の所有権移転の登記は国が行いますので、申請者が登記を申請する必要はありません。
なお、負担金の納付を求める通知が到達してから30日以内に納付しないと、国庫帰属の承認の効力が失われてしまいます。失効させてしまった場合、再び同じ土地の国庫帰属を希望するときは、最初から申請し直す必要がありますので、注意してください。
国庫帰属の承認申請や相談について、より詳しいことを知りたい場合は、土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局(本局)にご相談ください。
コラム
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されました
親が亡くなるなどして土地や建物、マンションやアパートなどの不動産を相続したら法務局で相続登記をする必要があります。
令和6年(2024年)4月1日より前の相続でも、未登記であれば、義務化の対象となります(3年間の猶予期間あり)。
正当な理由がないにもかかわらず、不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料の適用対象となります。
正当な理由の例
(1)これまで相続登記を放置していたため相続人が極めて多数により、戸籍謄本などの必要な資料の収集や他の相続人の把握に時間がかかる
(2)遺言の有効性や遺産の範囲などで争っている
(3)申請義務を負う相続人自身が重い病気にかかっているなど
相続登記の義務化については、こちらもご覧ください。
政府広報オンライン「なくそう所有者不明土地~相続登記等の申請が義務化されます」
(取材協力:法務省 文責:政府広報オンライン)