不妊治療、社会全体で理解を深めましょう

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不妊治療について医者に相談している夫婦

Point
不妊は実は身近な話です。不妊の検査や治療を受けたことがあるカップルは、年々増えています。厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」によると、令和3年(2021年)に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の数は「約4.4組に1組」となっています。平成19年(2007年)以降のデータを見ると、全体の出生数は下がっているものの、妊娠を望み、検査や不妊治療を受けるカップルは増加していることが分かります。
不妊は決して珍しいことではありません。不妊治療について、社会全体で理解を深めましょう。

1不妊とは?不妊の原因は様々です

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が一定期間避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、妊娠しないことをいいます。公益社団法人日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」としています。

ただし、1年というのはあくまで目安の一つです。妊娠のために医学的介入が必要な場合、例えば女性に排卵がなかったり、男性の精子数が少なかったりするなどの原因で妊娠しにくい場合、1年を待たずに不妊の検査や治療を始めるほうがよいこともあります。

日本では、令和3年(2021年)に実施した体外受精・顕微授精などの不妊治療の一つである「生殖補助医療」によって約7万人が誕生しており、これは生まれた赤ちゃんの約12人に1人という割合になります。
しかし、生殖補助医療による出生児が大幅に増えているということはありません。不妊治療は始めてすぐに妊娠する場合もあれば、何年も治療を続けている場合もあります。

生殖補助医療による出生児数と全出生児に占める割合
生殖補助医療による出生児数と全出生児に占める割合のグラフ。2021年には全出生児のうち8.6%が生殖補助医療により誕生している。

資料:「公益社団法人日本産科婦人科学会「ARTデータブック(2020年)」及び
「厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)」」より政府広報室作成

不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合
不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合のグラフ。不妊を心配したことがある夫婦は39.2%、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(又は現在受けている)夫婦は22.7%となっている。

資料:「国立社会保障・人口問題研究所「社会保障・人口問題基本調査」(各年版)」より政府広報室作成

不妊の原因は、女性側だけにあるわけではありません。WHO(世界保健機関)によれば、不妊の約半数は男性側に原因があるとされています。また、検査をしても原因が分からない場合もあります。不妊治療を行うときは、二人でよく相談して治療に取り組むことが大切です。

2妊娠が成立するまで

妊娠のプロセス

ここで、妊娠が成立する仕組みを確認しておきましょう。妊娠が成立するまでには、主に「排卵」「射精」「受精」「着床」の四つのプロセスがあります。

排卵

女性の卵巣の中にある卵子がホルモンの働きによって成熟し、卵巣から飛び出すことを排卵といいます。排卵した卵子は卵管に取り込まれます。

射精

射精された精子は、膣、子宮頸管、子宮から卵管へと進み、排卵された卵子を待ちます。
通常、1回で放出される精子は1億個以上ですが、その中で卵管までたどり着けるのはほんの一部です。

受精

卵子と精子が出会い、融合して一つの細胞(受精卵)になることを受精といいます。卵子と融合できる精子はたったの一つです。一つの精子が卵子に入り込むと、他の精子は入ることができなくなります。受精卵は、細胞分裂を繰り返しながら、卵管から子宮へと進んでいきます。

着床

受精卵が子宮に到達する頃には、胚盤胞はいばんほうと呼ばれる状態になります。また、子宮内膜は、ホルモンの影響でふわふわのベッドのような状態になっています。胚盤胞は子宮に到達すると、子宮内膜にもぐり込んで根を張っていきます。これを着床といいます。受精卵ができてからおおよそ12日後に着床が完了し、着床後も順調に受精卵が成長すれば、更に10日後くらいで妊娠の反応が出ます。

全てのプロセスをクリアして妊娠成立

排卵した卵子が受精できるのは1日程度、射精された精子が女性の体内で生きられるのは3日程度といわれており、妊娠するには、この間に卵子と精子が運良く出会うことが必要です。これらのプロセスを全てクリアして初めて、妊娠成立となるのです。

妊娠のプロセス。詳細は本文に記載のとおり。

妊娠が成立しない場合

避妊をせずに性交をしても妊娠が成立しないのは、上述のプロセスのどこかに原因があったり、卵子と精子が出会うタイミングがずれていたりするなどの可能性が考えられます。妊娠の成立を妨げる女性側の原因としては、無月経や月経周期が不規則であることによる排卵の問題、卵管がつまったり狭くなったりして精子、卵子、受精卵の移動が妨げられてしまっている卵管の問題、ポリープや筋腫があったり、子宮内膜の厚さが十分でなかったりして着床が妨げられる子宮の問題などがあります。男性側の原因には、精子を製造する能力に問題がある、生み出された精子がペニスの先まで運ばれない、性交がうまくできないなどがあります。

3不妊治療の一般的な流れ

不妊治療の一般的な流れ

不妊症が疑われる場合はまず、精液検査、血液検査、超音波検査などの様々な検査を行い、不妊を引き起こしている原因を調べます。検査によって不妊の原因が分かった場合は、原因に応じて薬による治療や手術を行います。しかし、検査をしても原因が分からないことも少なくありません。原因がはっきりしなくても、妊娠を目指して治療を行うこともあります。

不妊治療は、一般不妊治療と生殖補助医療に大きく分かれます。一般的な流れとしてはまず、排卵日を予測して性交のタイミングを合わせる「タイミング法」や、排卵日前後に精液を子宮の奥に注入する「人工授精」などの一般不妊治療から行います。内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵を起こさせる「排卵誘発法」も一般不妊治療の一種で、排卵がないかたや、排卵が起こりにくいかたなどに行われることがあります。
一般不妊治療で妊娠しない場合には、卵子を取り出して、体の外で受精(シャーレ上で受精を促す)させてから子宮内に戻す「体外受精」や卵子に注射針などで精子を注入する「顕微授精」などの生殖補助医療を行います。

一般不妊治療とは?

一般不妊治療は、「タイミング法」と「人工授精」を指します。

タイミング法

記事_不妊治療(タイミング法)

「タイミング法」は、超音波検査や排卵検査薬を使用して性交のタイミングを決める方法です。少量の排卵誘発薬を併用する場合もあります。

人工授精
記事_不妊治療(人工授精)

 

「人工授精」は、マスターベーションなどにより精子を採取し、カテーテル(細い管)を用いて調整した精液を子宮内に注入する方法です。少量の排卵誘発薬を併用する場合もあります。

生殖補助医療とは?

「生殖補助医療」とは、体外受精を始めとする不妊治療を指します。

体外受精
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「体外受精」は、卵巣を穿刺せんし し採取した卵子を、シャーレ上で精子と受精させる方法です。受精卵は3日から5日培養を行った後、カテーテルで子宮内に移植するか凍結保存します。基本的には1回に子宮内に移植できる受精卵は1個のため、複数個受精卵ができた場合には凍結保存されます。凍結保存された受精卵は、融解(解凍)することで、子宮内に移植することができるようになります。

顕微授精
記事_不妊治療(顕微授精)

「顕微授精」は、顕微鏡を見ながら、卵巣を穿刺し採取した卵子に注射針で精子を注入し受精させる手法です。精子数が少なかったり精子の運動能力が低かったりする場合に実施することが多く、男性不妊治療と組み合わせることも多いです。体外受精が複数回不成功の場合にも実施されます。受精後の受精卵は体外受精と同様、3日から5日培養を行った後、子宮内に移植するか凍結保存します。

治療スケジュール

一般不妊治療の場合、排卵周期に合わせて月に2日から6日程度の通院が必要です。ただし、これはあくまで目安であり、医師の判断、個人の状況、体調などにより増減する可能性があります。また、排卵周期に合わせる必要があるため、前もって治療の予定を決めることが困難となる場合があります。一般不妊治療の場合は、1回の診療自体は通常1時間から2時間ですが、体外受精、顕微授精などの生殖補助医療を行う場合は、更に頻繁な通院が必要となり、1回当たりの診療時間も長くなります。

治療 月経周期事の通院日数目安
女性 男性
一般不妊治療 診療時間1回1から2時間程度の通院:2日から6日 0から半日
※手術を伴う場合には1日必要
生殖補助医療 診療時間1回1から3時間程度の通院:4日から10日
診療時間1回当たり半日から1日程度の通院:1日から2日
0から半日
※手術を伴う場合には1日必要

出典:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」

さらに、ホルモン刺激療法などの影響で腹痛、頭痛、めまい、吐き気などの体調不良が生じ、治療自体にストレスを感じるかたもいます。男性についても女性の周期に合わせた通院や治療への参加が求められることがあります。

不妊治療は、妊娠・出産まで、あるいは、治療を止める決断をするまで続きます。治療を始めてすぐに妊娠できる場合もあれば、何年も治療を続けなくてはならない場合もあります。

4不妊治療は保険適用されています

不妊治療はこれまで自由診療で実施され、診療内容については様々なものがありましたが、関係学会が作成した診療ガイドラインを踏まえ、厚生労働省の審議会(中央社会保険医療協議会)で議論が行われ、令和4年(2022年)4月から有効性・安全性が示された治療が保険適用の対象となっています。具体的には、タイミング法などの一般不妊治療や、採卵・採精から胚移植に至るまでの基本的な生殖補助医療が保険適用されています。

また、生殖補助医療のうち、上記に加えて実施されることのある「オプション治療」については、保険適用されたものや、「先進医療」として保険診療と併用できるものがあります。
※先進医療とは、将来的な保険導入のための評価を行うために、いまだ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術などについて、保険診療と併用することが認められた技術です。不妊治療に関する「先進医療」は随時追加されることもあります。詳しくは、受診されている医療機関にお尋ねください。

5悩んだら相談窓口へ

不妊治療を受けているかたにかかる負担

不妊治療の負担は経済的なことだけではありません。治療や通院による身体的負担や、周囲の人たちに不妊や不妊治療についての認識が十分でなく理解されないことによる精神的負担も決して少なくないのです。

現在、働きながら不妊治療を受けるかたは増加傾向にあると考えられています。
平成29年(2017年)に厚生労働省が行った調査によると、働きながら不妊治療を受けるかたのうち、不妊治療と仕事との両立ができずに離職をした人はおよそ6人に1人となっています(※女性に限ると4人に1人以上)。不妊治療と仕事との両立が困難になっている要因としては、通院回数が多いこと、精神面での負担が大きいことなどが挙げられています。

そうした状況の改善に向け、現在、こども家庭庁や地方自治体が連携して、不妊症・不育症への相談支援などの強化や、正しい情報の周知・広報が行われています。
不妊症や不育症にお悩みの場合は、各都道府県、指定都市、中核市が設置している「性と健康の相談センター」(不妊専門相談センターや、女性健康支援センターなどを組み替えて令和4年度(2022年度)より新設)で相談を受け付けています。夫婦などの健康状況に応じた相談指導や、治療に関する情報提供などを行っています。同センターへの相談件数は年々増加傾向にあり、令和3年度(2021年度)には2万3,000件以上の相談が寄せられています。

性と健康の相談センターへの相談件数の推移
「性と健康の相談センター」への相談件数は年々増加している。令和元年が1万8,492件、令和2年(2020年)が2万1,484件、令和3年(2021年)が2万3,314件。

資料:こども家庭庁母子保健課調べから政府広報室作成

性と健康の相談センター

お近くの「性と健康の相談センター」はこちらからご確認ください。

コラム

職場での配慮

平成29年(2017年)に厚生労働省が行った調査によると、不妊治療を受けていることを「職場に一切伝えていない(伝えない予定)」とする人は全体の約6割となっています。職場でオープンにしていない理由は「不妊治療をしていることを知られたくないから」が最も多くなっています。
不妊や不妊治療に関することは、プライバシーに関することです。本人から相談や報告があった場合でも、本人の意思に反して職場全体に知れ渡ってしまうことがないようプライバシーの保護に十分配慮するようにしましょう。

また、不妊治療を受けている部下から相談や報告を受けた場合、どのような働きかたをしたいのか、不妊治療していることを周りにどこまで共有するのかなど、十分に話し合うことが重要です。部下の意思を十分に確認しないまま、部下の意思に反してしまわないよう、配慮しましょう。

不妊治療をしている(していた)ことを理由とした嫌がらせや不利益な取扱いは、ハラスメントに該当する場合もあります。また、親しい間柄であっても、からかったり冗談を言ったりすることは当事者を傷つけます。絶対にやめましょう。

 

まとめ

今や不妊は珍しいことでなく、こどもを持ちたいと考える人の多くが一度は直面することといっても過言ではありません。当事者でなかったとしても、あなたの周りに不妊治療を受けている人がいるかもしれませんし、また、若い人にとっては将来直面するかもしれないことです。不妊の悩みは、決して他人ごとではありません。私たち一人ひとりが不妊治療に対する正しい理解を深めることが大切です。

(取材協力:こども家庭庁、厚生労働省 文責:政府広報オンライン)

 

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