1障害者差別解消法とは?
障害者差別解消法は、平成25年(2013年)6月に障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として制定されました。この法律では、行政機関や事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に、負担が重すぎない範囲で障害者の求めに応じ合理的配慮をするものとしています。
なお、ここでいう「障害者」とは、障害者手帳を持っている人だけではありません。身体障害のある人、知的障害のある人、精神障害のある人(発達障害や高次脳機能障害のある人も含まれます。)、そのほか心や体のはたらきに障害のある人で、障害や社会の中にあるバリアによって、継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受けている全ての人が対象となります。
また、「事業者」とは、企業や団体、店舗のことであり、目的の営利・非営利、個人・法人を問わず、同じサービスなどを反復継続する意思をもって行う者をいいます。個人事業主やボランティア活動をするグループも「事業者」に含まれます。
不当な差別的取扱いとは?
障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、サービスなどの提供に当たって場所や時間帯を制限したりするなど、障害のない人と異なる取扱いをして障害のある人を不利に扱うことをいいます。障害者差別解消法では「不当な差別的取扱い」を禁止しています。
「不当な差別的取扱い」と考えられる具体例
- 障害のある人が来店したときに、正当な理由がないのに、「障害のあるかたは入店お断りです」と言って入店を断ったり、「来店するときは保護者や介助者と一緒に来てください」などと言って介助者などの同伴をサービス提供の条件とする行為
- 障害があることを理由に、障害のある人に対して言葉遣いや接客の態度など一律に接遇の質を下げる行為
- 障害の種類や程度などを考慮せず、漠然とした安全上の問題を理由に、施設の利用を断る行為
- 業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障害のない人とは異なる場所での対応を行う行為
なお、各事業者が障害を理由とした異なる取扱いを行うことについて正当な理由があると判断した場合(障害のある人や事業者、第三者の安全が確保できない場合など)には、障害のある人にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めることが望まれます。
2「合理的配慮の提供」とは?
社会生活において提供されている設備やサービスなどは障害のない人には簡単に利用できる一方で、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動を制限してしまっている場合があります。このような、障害のある人にとっての社会的なバリアについて、個々の場面で障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をすることとされています。これを「合理的配慮の提供」といいます。
令和3年(2021年)に障害者差別解消法が改正され、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。この改正法は令和6年(2024年)4月1日に施行されました。事業者が法に反する行為を繰り返し、自主的な改善を期待することが困難な場合などには、国の行政機関から報告を求められたり、助言や指導、さらには勧告を受けたりする場合があります。
合理的配慮の具体例
物理的環境への合理的配慮
(例:肢体不自由)
- 【対応例】
- 机に備え付けの椅子を片付けて、車椅子のまま着席できるスペースを確保した。
意思疎通への合理的配慮
(例:弱視難聴)
- 【対応例】
- 太いペンで大きな文字を書いて筆談を行った。
ルールや慣行の柔軟な変更
(例:学習障害)
- 【対応例】
- 書き写す代わりに、デジタルカメラやスマートフォン、タブレット端末などでホワイトボードを撮影できることとした。
合理的配慮の範囲
合理的配慮は事業者等の事務や事業の目的・内容・機能に照らし、次の三つを満たすものでなくてはなりません。
- 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。
- 障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。
- 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと。
また、先述のとおり合理的配慮の提供については、その提供に伴う負担が過重でないことも要件となります。
必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られるかどうか(例:飲食店)
- 【対応例】
- その飲食店は食事介助を事業の一環として行っていないことから、介助を断った。
- この例は、合理的配慮の提供義務に反しないと考えられます。
「過重な負担」かどうかの判断は?
合理的配慮の提供が、各事業者にとって「過重な負担」かどうかの判断は、以下の要素などを考慮して、個別の事案ごとに具体的な場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。
- 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
- 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模
- 財政・財務状況
人的・体制上の制約の観点
(例:小売店)
- 【対応例】
- 混雑時のため付き添いはできないが、店員が買い物リストを書き留めて商品を準備する旨を提案した。
- この例は、合理的配慮の提供義務に反しないと考えられます。
※なお、ここで示した各具体例は、あくまでも考えかたの一例であり、実際には個別に判断する必要があります。
3「建設的対話」を重ねましょう
合理的配慮の提供に当たっては、社会的なバリアを取り除くために必要な対応について、事業者と障害のある人との間で対話を重ね、共に解決策を検討する「建設的対話」が重要です。障害のある人からの申出への対応が難しい場合でも、障害のある人・事業者の双方が持っている情報や意見を伝え合い、建設的対話に努めることで、目的に応じて代わりの手段を見つけていくことができます。
建設的対話の具体例
発達障害のあるこどもの保護者と習い事教室の事業者との間の建設的対話
うちのこどもは特定の音に対する聴覚過敏があり、飛行機の音が聞こえると興奮して習い事に集中できなくなってしまうので、飛行機の音が聞こえないように、教室の窓を防音窓にしてもらうことはできますか?
防音窓の設置は工事も必要だし、すぐに対応することは難しいな。障害のあるお子さんが習い事に集中できるよう、他に飛行機の音を聞こえなくするような工夫はあるだろうか。
防音窓をすぐに設置することは難しいので、お子さんが習い事に集中できるよう、一緒に他の方法を考えましょう。お子さんはふだん、飛行機の音が聞こえないように、どのような対応をしているのですか?
家ではイヤーマフを着用することがあるのですが、習い事では音声教材などを利用することもあるので着用させていませんでした。着用の際には声掛けや手伝いが必要なので、イヤーマフを使うと先生にご迷惑ではないでしょうか?
飛行機が通過する時間帯は大体決まっているので、その際には、先生がイヤーマフの着用の声掛けやお手伝いをします。また、音声教材の使用タイミングについても配慮することができます。
分かりました。こどもにイヤーマフを持っていかせ、先生がお手伝いしてくれるからね、と言っておきます。
このほか具体例は、内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進相談対応ケーススタディ集」を参照してください。
※なお、ここで示している各具体例は、あくまでも考えかたの一例であり、実際には個別に判断する必要があります。
コラム:対話の際に避けるべき考えかた
事業者の皆さんには、円滑な対応ができるよう、主な障害特性や合理的配慮の具体例についてあらかじめ確認した上で、個々の場面ごとに柔軟に対応を検討することが求められます。その際に、対話で避けるべき考えかたは、次のとおりです。
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前例がないので、対応できません
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合理的配慮の提供は個別の状況に応じて柔軟に検討する必要があるものであり、前例がないことは対応を断る理由にはなりません。
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障害のある人だけを特別扱いできません
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合理的配慮は障害のある人もない人も、同じようにできる状況を整えることが目的であり、「特別扱い」ではありません。
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もし何かあったらいけないので、対応できません
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漠然としたリスクの可能性だけでは断る理由になりません。どのようなリスクが生じ、そのリスクを低減するためにどのような対応ができるのかを具体的に検討する必要があります。
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●●の障害がある人には、対応できません
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同じ障害でも程度などによって適切な配慮が異なるので、ひとくくりにせず、個別に検討する必要があります。
4新しい相談窓口「つなぐ窓口」
ここまでご紹介してきた「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」についての相談を地方自治体や各府省庁の適切な相談窓口につなぐほか、障害者差別解消法についてのご質問に回答する、新しい相談窓口として、「つなぐ窓口」が試行事業として開設されました。
障害者差別に関するご相談は「つなぐ窓口」
「つなぐ窓口」電話相談0120-262-701
- 対応時間:10時から17時 ※週7日受付(祝日・年末年始(12月29日から1月3日)を除く)
- メール相談:info@mail.sabekai-tsunagu.go.jp(※「@」を半角にして送付ください。)
- 開設期間:令和7年(2025年)3月下旬まで
障害のある人や事業者が「つなぐ窓口」に相談すると、「つなぐ窓口」が地方自治体や各府省庁の適切な相談窓口と調整を行い、相談内容の取次が済むと、相談者へ取次先の窓口の情報が伝えられます。相談者が取次を受けた地方自治体や各府省庁の窓口に相談すると、各窓口で取り次がれた相談内容を踏まえた上で、事実確認や事案解決に向けた調整が行われることになります。
「どこに相談すれば良いのか分からない。」、「平日は仕事や学校があって今まで相談できなかった。まずは話を聞いてみたい。」というかたも、是非「つなぐ窓口」に気軽に相談してください。
まとめ
合理的配慮の内容は、障害の特性やそれぞれの場面・状況に応じて異なり、また、障害のある人への対応が「不当な差別的取扱い」に該当するかどうかも、個別の場面ごとに判断する必要があります。障害者差別解消法に関し、困りごとがあれば、まずはお住まいの地方自治体の相談窓口や「つなぐ窓口」に相談してください。障害のある人もない人も、互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる社会を目指していきましょう。
(取材協力:内閣府 文責:政府広報オンライン)