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  • 職人がタンクのもろみを櫂(かい)でかき混ぜる「櫂入れ」の作業
  • 南部美人の様々な製品
  • 蒸した米を冷気で冷やす
  • 2017年、インターナショナル・ワイン・チャレンジ のSake部門「チャンピオンサケ」を受賞した際の久慈浩介さん(右から二番目)。
  • 岩手県の郷土料理「せんべい汁」

March 2021

世界に広がる岩手の酒

職人がタンクのもろみを櫂(かい)でかき混ぜる「櫂入れ」の作業

120年余りの歴史を持つ岩手県の酒蔵は、伝統的な日本酒造りを守りつつ、海外への販路拡大や酒造工程へのAIの活用など、新たな取組を積極的に行っている。

南部美人の様々な製品

江戸時代(1603~1867)初期に、南部藩(現在の青森県と岩手県の一部)では日本酒づくりが始まったと言われる。南部藩は産業振興策として日本酒造りを奨励した。藩内の酒蔵は、農閑期の冬になると農民を雇い、酒造りを行った。日本酒造りの世界では、製造現場の最高責任者を杜氏(とじ又はとうじ)と呼ばれ、南部藩出身の杜氏は「南部杜氏」として知られる。南部杜氏はその確かな醸造技術が高く評価されており、藩内のみならず日本各地の酒蔵にも招かれて酒造りに携った。

その南部杜氏の伝統と技術を受け継ぐ酒蔵の一つが、1902年に岩手県の北端に位置する二戸市(にのへし)で創業した株式会社南部美人である。同社の代表的ブランドは、社名と同じ「南部美人」。その名は、岩手を代表する日本酒の一つとして全国的に知られている。インターナショナル・ワイン・チャレンジ*のSake部門の最高位である「チャンピオンサケ」(2017年)など、国内外のコンテストの受賞も数多い。

蒸した米を冷気で冷やす

五代目蔵元で代表取締役社長を務める久慈浩介さんによると、創業からずっと大切にしてきたのは、家訓でもある「品質一筋」の酒造りだという。主原料として、日本酒に適した地元産の米を厳選し、これを最低でも精米歩合70%、大吟醸酒を造る際には精米歩合50%以下まで丹念に磨きあげていく。そして、仕込みに使う水は、蔵の井戸に湧く県立自然公園折爪馬仙峡(おりつめばせんきょう)からの伏流水である。このミネラル分を含んで、青みがかった水が酵母や麹の働きを活性化し、南部美人の味とコクを生み出すという。

「弊社のお酒・南部美人の特徴は、何と言っても米で造る酒とは思えないほどのフルーティな香りと爽やかな旨味です。口に含んだ瞬間、誰もが笑顔になるような酒を我々は目指しています」と久慈さんは言う。

同社では、杜氏たちが継承してきた伝統的な酒造りを大切にしながら、積極的に新たな取組も行っている。その一つが業界に先がけ1997年から始めた海外進出である。今や世界中にファンがいる日本酒だが、当時は海外での認知度が極めて低く、久慈さんは自分で持参した自社の日本酒の瓶をレストランなどに配り歩いたことさえあったという。こうした努力やその後の和食ブームの影響などもあって、南部美人は現在、ニューヨークやロンドンなどに販路を持ち、世界39か国に輸出している。「南部美人」をそのまま、英語で“Southern Beauty”と訳し、海外ではそのラベルで知られるようになっている。2018年に同社は日本の農林水産物・食品の輸出に取り組む事業者の中で、特に優れた事業者として農林水産省から表彰された。

2017年、インターナショナル・ワイン・チャレンジ のSake部門「チャンピオンサケ」を受賞した際の久慈浩介さん(右から二番目)。

また、世界のより多くの人に手に取ってもらうため、同社では、Vegan(完全菜食主義者)とKosher (ユダヤ教の食事規定) の認定を取得している。さらに近年はITベンチャーと協力して、職人の経験や勘に頼る醸造工程の一部をAIの活用によりデータ化するプロジェクトも行っている。

岩手県は、豊かな海産物を誇る三陸海岸に面している(Highlighting JAPAN 2020年5月号参照)。そこで獲れるホッキ貝やカキ、さらには、江戸時代に生まれた、野菜や鶏肉に地元名産の南部せんべいを煮込んだ郷土料理「せんべい汁」と一緒に飲む南部美人は格別だ、と久慈さんは言う。

岩手県の郷土料理「せんべい汁」

「日本酒に限らず、お酒は全て、その酒が生まれた土地の水や空気、風土を感じながら飲むのが一番です。コロナの感染が収束したら、是非岩手北部地を訪れていただき、地場の食材や名物料理とともに南部美人を楽しんでください」と久慈さんは語り、満面の笑みを浮かべた。

* インターナショナルワインチャレンジ(IWC)は、1984年以来毎年開催されている主要な国際ワインコンクールである。